五日市憲法草案

第三篇 立法権

第一章 民撰議院

第78条
  1. 民撰議院は、撰挙会法律に依り定めたる規程に循い、撰挙に於て、直接投籖法を以て、単撰したる代民議院を以て成る
  2. 但し、人口二十万人に付、一員を出す可し。
第79条
  1. 代民議員の任期三ヶ年とし、ニヶ年毎に其半数を改選す可し。
  2. 但し、幾任期も、重撰せらるることを得。
第80条
 日本国民にして、俗籍に入り(神官、僧侶、教導職、耶蘇宣教師に非る者にして)、政権民権を享有する満三十歳以上の男子にして、定額の財産を所有し、私有地より生ずる歳入あることを証明し、撰挙法に定めたる金額の直税を納るる、文武の常識を帯びざる者は、撰挙法に遵いて議員に撰挙せらるるを得
第81条
  1. 凡そ、此に掲げたる分限と、要款とを備具する日本国民は、被選挙人の半数は其区内に限り、其半数は何れの県の区にも通じて、選任せらるることを得
  2. 但し、元老院の議官を兼任することを得ず。
第82条
 代民議員は(撰挙せられたる地方の総代に非ず)、日本全国民の総代人なり。故に、撰挙人の教令を受くるを要せず。
第83条
 婦女、未成年者、治産の禁を受けたるもの者、白痴、瘋癲の者、住居なくして人の奴僕雇傭たる者、政府の助成金を受くる者、及び常時犯罪を以て、徒刑一ヶ年以上実決の刑に処せらるたる者、又禀告されたる失踪人は、代民議員の撰挙人たることを得ず。
第84条
 民撰議院は、日本帝国の財政(租税、国債)に関する方案を起草するの特権を有す
第85条
 民撰議院は、往事の施政上の検査、及施政上の改正を為すの権を有す。
第86条
 民撰議院は、行政官より出せる起議を討論し、又国帝の起議を改竄するの権を有す
第87条
 民撰議院は、緊要なる調査に関し、官吏、並に人民を召喚するの権を有す。
第88条
 民撰議院は、政事上の非違ありと認めたる官吏(執務官、参議官)を、上院に提喚弾劾する特権を有す。
第89条
 民撰議院は、議員の身上に関し、左(下)の事項を処断するの権を有す。

  1. 議員民撰議院の命令、規則、若くは特権に違背する者。
  2. 議員撰挙に関する訴訟。
第90条
 民撰議院は、其正副議長を議員中より撰挙して、国帝の制可を請う可し。
第91条
 民撰議院の議員は、院中に於て為したる討論、演説の為に、裁判に訴告を受くることなし
第92条
  1. 代民議員は、会期中、及会期後二十日間民事訴訟を受くることあるも、答弁するを要せず。
  2. 但し、民撰議院の承認を得るときは、此限にあらず。
第93条
  1. 民撰議院の代民議員は、現行犯罪に非れば、下院の前許、承認を得ずして会期中、及会期の前後二十日間、拘致、囚捕審判せらるることなし。
  2. 但し、現行犯罪の場合に於ても、拘致、囚捕、或は会期を閉づるの後、糺治、又囚捕するに於ても、即時至急に裁判所より代民議員を拿捕せしことを民撰議院に通知し、該院をして其件を照査して、之を処分せしむ可し。
第94条
  1. 民撰議院は、請求して会期中、及会期の前後廿日間、議員の治罪、拘引を停止せしむるの権を有す。
  2. 但し、法律は、結社集会の弊害を抑制するに須要なる処分を定む。
第95条
 民撰議院は、議長は院中の官員(書託等其他)を任命するの権あり。
第96条
 代民議員は、会期の間、旧議員任期の最終会議に定めたる金給を受く可し。又特別の決議を以て、往返の旅費を受く可し。

 
 
第二章 元老議院

第97条
  1. 元老院は、国帝の特権を以て命ずる所の議官、四十名を以て成る
  2. 但し、民撰議院の議員を兼任するを得ず。
第98条
 満三十五歳以上にして、左(下)部に列する性格を具うる日本人に限り、元老院の議官たることを得べし。

  1. 民撰議院の議長
  2. 民撰議員に撰ばれたること、三回に及べる者
  3. 執政官諸省卿
  4. 参議官
  5. 三等官以上に任ぜられし者
  6. 日本国の皇族華族
  7. 海陸軍の大中少将
  8. 特命全権大使及び公使
  9. 大審院上等裁判所の議長及び裁判官、又其大検事
  10. 地方長官
  11. 勲功ある者及び材徳輿望ある者
第99条
 元老院の議官は、国帝の特命に因りて、議員中より之を任ず。
第100条
 元老院の議官は、終身在職するものとす
第101条
 元老院の議官は、一ヶ年三万円に過ぎざる、一身の俸給を得べし。
第102条
 皇子、及太子の男子は、満二十五歳に至り、文武の常識を帯びざる者は、元老院の議官に任することを得ず。
第103条
 諸租税の賦課を許諾することは、先づ民撰議院に於て之を取扱い、元老院は唯其事ある毎に民撰議院の議決案を覆議して、之を決定するか、若くは抛棄するかの外に出でず。決して、之を変改することを得可らず
第104条
 元老院の編成、及権利に関する法律は、先づ之を元老院に持出さざるを得ず。民撰議院は唯之を採用するか棄擲するに過ぎず、決して之を刪添す可らず。
第105条
 元老院は、立法権を受用するの外、左(下)の三件を掌どる。

  1. 民撰議院より提出劾告せられたる執政大臣、諸官吏の行政上の不当の事を審糺、裁判す。其劾告手続は、法律別に之を定む。
  2. 国帝の身体、若くは権威に対し、又は国安に対するに重罪犯を、法律に定めたる所に循い裁判す。
  3. 法律に定めたる時機に際し、及び其定めたる規程に循い、元老院議官を裁判す。
第106条
 元老院議官は、其現行犯罪に由りて拘捕せらるる時、又は元老院の集会せざるときの外、予め元老院の決定承認を経ずして之を糺治し、又は拘致、囚捕せらるることなし。
第107条
 何れの場合たるを論ぜず、議官を糺治し、若くは囚捕する時は、至急に之を元老院に報知し、以て該院権限の処を為さしむ。

 
第三章 国会の職権

第108条
 国家永続の秩序を確定、国家の憲法を議定し、之を添刪更改し、千載不抜の三大制度を興廃する事を司る。
第109条
 国会は、国帝、及び立法権を有する元老院、民撰議院を以て成る
第110条
  1. 国会は、総て公行し、公衆の傍聴を許す
  2. 但し、国益のため、或は特異の時機に際し、秘密会議を開くことを要すべきに於ては、議員十人以上の要求に因て、各院の議長傍聴を禁止するを得。
第111条
 国会は、総て日本国民を代理するものにして、国帝の制可を須つの外、総て法律を起草し、之を制定するの立法権を有す
第112条
 国会は、政府に於て、若し憲法、或は宗教、或は道徳、或は信教自由、或は各人の自由、或は法律上に於て、諸民平等の遵奉財産所有権、或は原則に違背し、或は邦国の防禦を傷害するか如きことあれば、勉めて之れか反対説を主張し、之れか根元に遡り、其公布を拒絶するの権を有す。
第113条
 国会の一部に於て否拒したる法案は、同時の集会に於て再び提出するを得ず。
第114条
 国会は、公法、及び私法を整定す可し。即ち、国家至要の建国制度、及び根原法一般の私法、及び民事訴訟法、海上法、礦坑法、山林法、刑法、治罪法、庶租税の徴収、及び国財を料理するの原則を議定し、兵役の義務に関する原則、国財の歳出入予算表を規定す。
第115条
 国会は、租税賦課の認許権、及び工部に関め取立たる金額使用方を決し、又国債を募り国家の信任(紙幣公債証書発行)を使用するの認許権を有す。
第116条
 国会は、行政全局(法律規則に違背せしか処置、其宜ぎを得ざるや)を監督するの権を有す
第117条
 国会議する所の法案は、討議の際に於て、国帝之を中止し、若くは禁止することを得ず
第118条
 国会(両院)共に規則を設け、其院事を処置するの権を有す。
第119条
 国会は、其議決に依りて憲法の缺典を補充するの権総て、憲法に違背の所業は、之を矯正するの権新法律、及び憲法変更の発議の権を有す。
第120条
 国会は、全国民の為に、法律の主旨を釈明す可し
第121条
 国会は、国帝、太子、摂政官、若くは摂政を召して、国憲、及び法律を遵守するの宣誓詞を宣べしむ。
第122条
 国会は、国憲に掲げたる時機に於て、摂政を選挙し、其権域を指定し、未成年なる国帝の太保を任命す。
第123条
 国会は、民撰議院より論劾せられて、元老院の裁判を受けたる執政の、責罰を実行す。
第124条
 国会は、内外の国債を募り起し、国土の領地を典売し、或は疆域を変更し、府県を発立分合し、其他の行政区画を決定するの権を有す。
第125条
 国会は、国家総歳入出を計算したる(予算表)を検視の上、同意の時は之を認許す。
第126条
 国会は、国事の為めに緊要なる時機に際し、政府の請に応じ、議員に該特務を許認指定す。
第127条
 国会は、国帝歿するときは、若くは帝位を空するとき、既往の施政を検査し、及び施政上の弊害を改正す。
第128条
 国会は、帝国、若くは港内に外国海陸軍兵の進入を允否す。
第129条
 国会は、毎歳政府の起議に因り、平時、若くは臨時海陸軍兵を限定す。
第130条
 国会は、内外国債を償するに適宜なる方法を議定す。
第131条
 国会は、帝国に法律を施行するために、必要なる行政の規則と行政の設立、及び其不全備を補う法を決定す。
第132条
 国会は、政府官僚、及び其俸給を改正設定し、若くは之を廃止す。
第133条
 国会は、貨幣の斤量、価格、銘誌、模画、名称、及び度量衡の原位を定む
第134条
 国会は、外国との条約を議定す。
第135条
 国会は、兵役義務執行の方法、及び其規則と期限とに関する事就中、毎歳召募す可き徴兵員数の定数、及び予備馬匹の賦課、兵士の糧食、屯営の総則に関する事を議定す。
第136条
 (国会は、)政府の歳計予算表の規則、及び諸租税賦課の毎歳決議、政府の決算表并に会計管理、成跡の検査、新公債証券の発出、政府旧債の変更、官地の売易貸与、専売并特権の法律総て、全国に通ずる会計諸般の事務を決定す
第137条
 金銀銅貨、及び銀行証券の発出に関する事務の規則、税関、貿易、電線、駅逓、鉄道、航運の事、其他全国通運の方法を議定す。
第138条
 証券の銀行、工業の特準度量衡製造の、模型記印の保護の法律を決定す。
第139条
 医薬の法律、及び伝染病、家畜疫疾防護の法律を定む。

 
第四章 国会開閉

第140条
国会は、両議院共に必ず勅命を以て、毎歳同時に之を開くべし
第141条
国帝は、国安の為に須要とする時機に於ては、両議院の議決を不認可し、其議会を中止し紛議するに当りては、其議員に解散を命ずるの権を有す。然れども、此場合に当りては、必らず四十日内に新議員を撰挙せんして、二ヶ月間内に之を召集して再開す可し。
第142条
 国帝崩して国会の召集期に至るも、尚お之を召集する者無き時は、国会自ら参集して開会することを得
第143条
 国会は、国帝の崩御に遭うも、嗣帝より解散の命令ある迄は、解散せず定期の会議を続くることを得。
第144条
 国会の閉期に当りて、次期の国会未だ開かざるの間に国帝崩御することあるときは、議員自ら参集して国会を開くことを得。若し嗣帝より解散の命あるに非れば、定期の会議を続くることを得。
第145条
 議員の撰挙既に畢り、未だ国会を開かざるの間に於て国帝の崩御に遭うて、尚お之を開く者なきときは、其議員自ら参集め之を開くことを得。若し嗣帝より解散の命あるに非れば、定期の会議を続くることを得。
第146条
 国会の議員其年限既に尽きて、次期の議員未だ撰挙せられる間に国帝崩御するときは、前期の議員集会して、一期の会を開くことを得。
第147条
  1. 各議院の集会は、同時にす可し。若し其一院集会して他の一院集会せざるときは、国会の権利を有せず
  2. 但し、糺弾、裁判の為に元老院を開くは、其法庭の資格たるを以て此限にあらず。
第148条
 各議院議員の出席過半数に至らざれば、会議を開くことを得ず

 
第五章 国憲の改正

第149条
 国の憲法を改正するは、特別会議に於てす可し
第150条
 両議院の議員三分の二の議決を経て、国帝之を允可するに非れば、特別会を召集することを得ず。特別会議員の召集及び撰挙の方法は、都(かつ)て国会に同じ。
第151条
 特別会を召集するときは、民撰議院は散会するものとす。
第152条
 特別会は、元老院の議員及国憲改正の為に特に撰挙せられたる人民の代民議員より成る。
第153条
 特別に撰挙せられたる代民議員三分の二以上、及び元老院議員三分の二以上の議決を経て、国帝之を允可するに非れば、憲法を改正することを得ず。
第154条
 其特に召集を要する事務畢るときは、特別会自ら解散するものとす。
第155条
 特別会解散するときは、前に召集せられたる国会は、其定期の職務に復す可し。
第156条
 憲法にあらざる総ての法律は、両議院出席の議員過半数を以て、之を決定す

 

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