五日市憲法草案

第五篇 司法権

第一章 司法権

第170条
 司法権は、国帝之を検任す
第171条
 司法権は不羈独立にして、法典に定むる時機に際し、及び之を定むる規程に循い、民事並に刑事を審理するの裁判官判事及び陪審官、之を執行す
第172条
 大審院、上等裁判、下等裁判所等を置く
第173条
 民法、商法、刑法、訴訟法、治罪法、山林法、及び司法官の構成は、全国に於て同均とす。
第174条
 上等裁判所、下等裁判所の数、並に其種類、各裁判所の構成権任、其権任を執行すべき方法及び裁判官に属す可き権理等は、法律之を定む。
第175条
 私有権及び該権より生じたる、権理、負債、其他凡そ民権に管する訴訟を審理するは、特に司法権に属す。
第176条
 裁判所は、上等下等に論なく、廃改することを得ず。又其構制は、法律に由るに非れば、変更を可らず。
第177条
 凡そ裁判官は国帝より任じ、其判事は終身其職に任じ、陪審官は訴件事実を決判し、裁判官は法律を準擬し、諸裁判は所長の名を以て之を決行宣告す。
第178条
 郡裁判所を除くの外は、国帝の任じたる裁判官の三年間在職したる者は、法律に定めたる場合の外は、復之を転黜することを得ず。
第179条
 凡そ裁判官、法律に違犯(すること)あるときは、各自其責に任ず。
第180条
 凡そ裁判官は、自ら決行せらざるべき罪犯の審判あるときを以てするの外、有期、若くは無期の時間、其職を褫(うば)わるることなし、又司法官の決済(裁判所議長、若くは上等裁判所の決済等を云う)を以てせらるるか、又は充分の緒由ありて国帝の令を下し、且つ、憑拠を帯びて罪状ある裁判官を当該の裁判所に訴告する時の外は、裁判官の職を停止することを得ず。
第181条
 軍事裁判、及び護卿兵裁判、亦法律を以て之を定む。
第182条
 租税に関する争訟及び違令の裁判も、同じく法律を以て之を定む。
第183条
 法律に定めたる場合を除くの外、審判を行うために例外非常の法衙を設くることを得ず。如何なる場合たりとも、臨時若くは特別の裁判所を開き、臨時若くは特別の糺問掛りを組立、裁判官を命じて聴訟断罪のことを行わしむ可らず。
第184条
 現行犯罪を除くの外は、当該部署官より発出したる命令書に依るに非ずして、拿捕することを得ず。若し、縦ままに拿捕することあれば、之を命令したる裁判官及之を請求したる者を、法律に掲ぐる所の刑に処す可し。
第185条
 罰金及び禁錮の刑に問うべき罪犯は、勾留することを得ず。
第186条
 裁判官は、管轄内の訟獄を聴断せずして、之を他の裁判所に移すことを得ず。是故を以て、特別なる裁判所及び専務の員を設くることを得ず。
第187条
 何人も、其意思に悖い、法律を以て定めたる正当判司裁判官より阻隔せらるることなし。是故を以て、臨時裁判所を設立することを得可らず。
第188条
 民事、刑事に於て法律を施行するの権は、特に上下等裁判所に属す。然れども、上下等裁判所は審判及び審判の決行を看守するの外、他の職掌を行うこと得ず。
第189条
 刑事に於ては、証人を推問し、其他凡て劾告の後に係る訴訟手続の件は公行す可し。
第190条
 法律は、行政権と司法権との間に生ずることを得べき、権限抵触の裁判を既定す。
第191条
 司法権は、法律に定むる特例を除き、亦政権に管する争訟を審理す
第192条
  1. 民事、刑事となる裁判所の訟庭は(法律に由て定めたる場合を除くの外は)、法律に於て定むる所の規程に循い、必ず之を公行す可し
  2. 但し、国安及び風紀に関するに因り、法律を以て定めたる特例は、此限に非らず。
第193条
 凡そ裁判は、其理由を説明し、訟庭を開て之を宣告す可し。刑事の裁判は、其處断の拠憑する法律の条目を掲録す可し。
第194条
 国事犯の為に死刑を宣告す可らず。又其罪の事実は、陪審官之を定む可し。
第195条
 凡そ著述、出板の犯罪の軽重を定むるは、法律に定めたる特例の外は、陪審官之を行う。
第196条
 凡そ法律を以て定めたる重罪は、陪審官其罪を決す
第197条
 法律の定めたる場合を除くの外は、何人を論ぜず、拿捕の理由を掲示する判司の命令に由るに非れば、囚捕す可らず。
第198条
 法律は、判司の命令の規式及罪人の糺断に従事すべき期限を定む。
第199条
 何人を論ぜず、法律に由て其職任ありと定めたる権を以てし、及び法律に指定したる規程に於てするの外は、家主の意思に違いて家屋に侵入することを得ず。
第200条
 如何なる罪科ありとも、犯罪者の財産を没収す可らず
第201条
 駅郵、若くは其他送運を掌る局舎に託する信書の秘密は、法律に由り定めたる場合に於て、判司より特殊の免許あるときを除くの外は、必ず之を侵す可らず。
第202条
 保寨の建営、土堤の築作、脩補のためにし、及び伝染病其他緊急の情景に際し、前文に掲ぐる公布を必需とせざるべき時は、一般の法律を以て之を定む。
第203条
 法律は、予め公益の故を以て没収を要することを公布し可し
第204条
 公益の公布及び没収の前給は、戦時、火災、溢水に際し、即時に没収することを緊要とすることは、之を要求することを得ず。然れども、して没収を被りたる者は、没収の償価を請求するの権を損害せず

 

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