風知空知

水素特集

本格導入に向け「ファーストムーバー (新規参入) 」を支援
ガスエネルギー新聞 2023年 11月 20日 号/公開日時:2023/ 11/ 17 19:50

 

「水素社会」構築に向けた取り組みが活発化している。政府は 6月に「水素基本戦略」を 6年振りに改定し、水素など脱炭素と経済成長の両立に資する技術の社会実装を支援するための、「GX 経済移行債」を発行する方針を示した。水素サプライチェーン開発、LNG 火力発電での水素混燃や純水素型燃料電池の技術開発、燃料電池自動車の普及や燃料インフラの水素ステーション整備など、広範な分野で実証・開発が進んでいる。政策面の取り組みとメーカーの技術開発をまとめた。




優位な技術を世界へ ― 保安観点も重視 ― 水素基本戦略を改定


 今回の「水素基本戦略」の改定では、日本企業が「技術的優位性」を持つ分野の国際競争力を伸ばすという目標を明確化した。これまで 2030年に 300万t、50年に 2千万tという「水素導入目標」を示していたが、新たに 40年目標 1,200万tを追加した。さらに保安の観点を重視する。現行の法令間で技術基準の共通化を図り、保安規制の合理化を図る方針も示した。

 市場の立ち上がりが相対的に早く、日本企業が「技術的優位性」を持つ分野として、① 水素供給 (水素製造/水素サプライチェーン構築) 、② 脱炭素型発電、③ 燃料電池、④ 水素の直接利用 (脱炭素型鉄鋼/脱炭素型化学製品/水素燃料船※水素燃料車) 、⑤ 水素化合物の活用 (燃料アンモニア/カーボンリサイクル製品/e―methaneなど) ―― を挙げた。

① 水素供給では、「水電解装置」のコスト削減と国内メーカーの国際競争力の向上を図るとした。水素サプライチェーン構築では、海外でのパートナー企業との連携などを進め、市場でのプレゼンス向上を狙うとした。

② 脱炭素型発電では、LNG 火力への水素混焼の開発も進められているとした。水素発電技術には、サプライチェーン全体のコスト低減を目指していくことが欠かせないため、両方を 一体的に支援しているとした。

③ 燃料電池については、バス・トラックのほか、フォークリフト、船舶、鉄道などの動力源としても活用が期待されるとした。また、燃料電池はセルをコア技術とし、セパレーターや水素タンクなど、さまざまな部品から構成されると指摘。今後の本格的な量産化に向けて、これらの「部材産業」の育成、国内立地を促進するとした。

④ 水素の直接利用のなかでは、脱水素型鉄鋼の開発が進んでいる。製鉄の高炉では現在、還元材にコークスを使用しているが、水素に切り替えることで、排出する二酸化炭素 (CO2) を大幅に削減できる。この水素還元製鉄の技術開発を促進・確立して海外展開を進めるとしている。

⑤ 水素化合物の活用では、火力発電でのアンモニア混焼実証が進められている。50% を超える混焼率の実現や専焼化に向けた技術開発・実証を進め、早期の社会実装を図るとしている。さらにカーボンニュートラルを実現するために有効な技術として合成メタン (e―methane) や合成燃料 (e―fuel) などを上げ、社会実装を進めるとした。

 水素の安全な利用に向け、保安規制の合理化を図る方針を示した。水素の利用を進めるために、安全性を客観的に証明する科学的データを獲得する。政府は「水素社会」実現に関わる各関係者が、消費者や地域住民向けに、水素の物性や取り扱い、安全対策の理解を深める情報発信や教育を進めてほしいと考えている。

「水素基本戦略」に掲げられた水素関連の技術の開発は、「グリーンイノベーション (GI) 基金」を活用した実証が進展している。

 液化水素サプライチェーンの大規模実証は、30年に 1㎥ 当たり 30円の「水素供給コスト」を実現するため、海上輸送技術を世界に先駆けて確立する目的で、液化水素運搬船を使った商用化実証を行っている。川崎重工業、ENEOS、岩谷産業などが参画している。

 水素発電技術の実機実証は、水素ガスタービン発電 (30% 混焼と 100% 水素専焼)を「30年までに商用化」するため、新たに開発した燃焼器を発電所に実装し、燃焼安定性などを検証している。JERA、関西電力、ENEOSが実証を進めている。

 これら「GI 基金」を活用した実証は 30年度までのものだ。30年度以降は「水素の本格導入」に向け「商用化」を進めていくことになる。水素の輸送などの商用化に初めて踏み切る事業者を「ファーストムーバー (新規参入) 」と位置付け、LNG などの既存燃料と水素の「価格差を支援」する。この財源として期待されているのが「GX 経済移行債」だ。今年 6月の「GX 推進法」の施行により、政府は「GX 経済移行債」の発行が可能となった。発行は来年 (2024年) 2月を予定しており、調達資金の使途として、「再生可能エネルギー」の主力電源化などのほか、水素・アンモニアの「導入促進」が明記されている。

 経済産業省は、価格差支援の具体的な制度や、産業保安の観点から必要な制度設計などを検討するための合同会議を (2023年) 10月 4日から開催、2回目の会合を同月 25日、3回目の会合を 11月 14日に開催した。年末までに計4回の会合を開き、「中間とりまとめ」を行う予定だ。


 

大型貯槽の離隔距離など ―「導入基準」の策定進める/KHK


「高圧ガス保安協会 (KHK) 」は、「水素社会」実現に向け、規制合理化の提言や基準策定、検査・認証業務、事故調査などで貢献していく方針だ。現在、「大規模水素供給インフラ」の整備に向け、大型貯槽の離隔距離の基準の適正化や「水電解装置」導入にともなう基準整備などに取り組んでいる。

 2025年以降、大量の液化水素の輸入がはじまることが見込まれており、大型貯槽の建設が進むことが予想される。このため 5万kℓ 程度の水素貯槽を建設する際の安全基準づくりを進めている。JAXA、横浜国立大学と共に「新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 」の 「公募事業」の採択を受け、23 ~ 25年度までの「3カ年計画」で実証事業に取り組んでいる。

 安全確保に必要な液化水素貯槽から事業所敷地境界までのより合理的な離隔距離について実証実験を行い検討する。5万kℓ の LNG 貯槽の場合、必要な離隔距離は約 160m になるが、同等規模の液化水素貯槽に現行ルールを適用すると、その距離は LNG 貯槽の約2倍になるという。来年度末頃に秋田県内の試験場に、液化水素タンクや防液堤を模擬した 3m 四方のコンクリート製貯留槽などの実験設備を設置し、数カ月の期間で、実際に貯留槽内に水素を漏えい・拡散・着火させて、燃焼状況を確認する。また、実験データに基づき、水素が漏えいした際の拡散挙動・爆発の影響などの「シミュレーション手法」を確立し、安全を確保できる離隔距離や防液堤の基準の合理化・適正化を検討する。

「水電解水素製造装置」は、本年 6月に改定された「水素基本戦略」で 2030年における「導入目標」が設定され、「再生可能エネルギー」を活用して「クリーンな水素」を製造できる機器として注目されている。現在、1Mパスカル未満の圧力で使用する「水電解水素製造装置」は「高圧ガス保安法」の適用を受けないが、海外では 1Mパスカル未満で使用していた「水電解水素製造装置」が爆発する事故も発生しており、同装置の普及に向けては安全の確保が重要となっている。

「NEDO 事業」の採択を受けて、KHK は 23年度中にどのような手続きや検査が必要か、現状の課題を整理して「在るべき形」を提言する。安全確保策や設計基準のポイントを検討。国内外で発生した事故などの情報を収集し、「国際基準」との整合性をとり、安全基準に反映させる。

 KHKは、「水素利用機器」の国内普及段階でも、保安上の検査などを実施し、国や「地方自治体」の業務をサポートしていく考えだ。「水素の保安業務に従事する人材」を教育するための「研修プログラム作り」も進めていく。


 

中国が電解装置製造リード ― 水素閣僚会議で専門家が講演/第6回水素閣僚会議


 経済産業省と「新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)」が 9月に東京都内のホテルで開催した「第6回 水素閣僚会議」では、2030年までに「世界で 1億 5千万tの水素需要を創出する目標」などを盛り込んだ議長声明を発表したほか、国内外の専門家による講演発表も行われた。中国が「水電気分解装置」の製造をリードしており、今年中に世界シェアの半分を占めることになるという「見通し」などが示された。国際エネルギー機関 (IEA)、韓国ガス安全公社、世界銀行の講演内容を紹介する。

「 IEA (エナジー・テクノロジー・アナリスト) 」の ホセ・ブルムーデス氏は …

 

再生可能エネルギーで製造する水素はまだコストが高いが、技術開発によりコストの障壁を乗り越えることができれば大幅に伸びるかもしれない。低炭素の水素導入はまだ早期の段階といえる。

… と話した。世界の「水電気分解装置」の市場規模が拡大していると指摘。23年には累計の導入規模は数百Gwになり、導入の転換期となると予想した。さらに …

 

中国が水電気分解装置の製造でリードしている状況だ。数年前までは全世界に占めるシェアは 10% 未満だったが、今年末までにシェアの「半分」を占めることになるだろう。

… と述べた。

「世界銀行」の デメトリオス・パパサナシオウ氏は …

 

水素は主に金属熱処理や半導体製造、アンモニアの生産などの工業用分野で既に年間 1億t以上が全世界で使用されている。このうち「クリーン水素」と言えるのは 200万t程度。残りの 98% は天然ガスなどから生産される「グレー水素」だ。現在の水素生産からは年間約 10億tの CO2が排出されている。

… と指摘。水素は CO2 排出低減が難しい化学、鉄鋼、航空、海上輸送分野において大きな役割を果たす可能性があり …

 

「クリーン水素」がエネルギー移行の「カギ」を握っている。

… と述べた。年間 100万tの「グリーン水素」を生産するためには、10Gwの「電気分解装置」と、太陽光発電などの「再生可能エネルギー」が 20Gw必要だと指摘。そのために必要な「投資額」は 300億 US$ に上り …

 

これは優れた「投資機会」だ。テクノロジーが必要とされており、多くの先進国において水素産業を成長させる機会となる

… と述べた。パパサナシオウ氏は …

 

50年の「ネットゼロ」を実現するには「グリーン水素」が重要な役割を果たす。国際的な貿易が不可欠であり、将来は「グリーン水素」の輸送の半分はパイプライン、残り半分は船舶輸送になるとみている。欧州が「水素投資」の中心地となり、重要な役割を果たす。アジアへの大規模な輸出も見込まれる。途上国における「低炭素の水素プロジェクト」について、「世界銀行」はブラジル、モーリタニア、ナミビア、南アフリカでどのような取り組みが必要か検討している。

… と述べた。

「韓国ガス安全公社 ー ガス安全研究院」の パク・ヒジュン委員長は、韓国の「水素保安政策」について説明した。

 

23年に「水素安全管理ロードマップ 2. 0 」を発表した。水素産業の環境変化に対応し、水素新技術の安全性確保と新産業活性化のための安全制度の改善を目標としている。「ロードマップ」は大きく「三つの戦略」に分かれている。一つは水素の安全基準の開発。二つ目は水素産業育成のための規制改革。三つめは安全と産業のバランスの取れた発展のための水素安全管理だ。

… と説明した。




【供給網構築へ新たな動き】

 

国内約 8カ所で拠点整備、各地で指定に向けた官民連携


 6月に改定された「水素基本戦略」では、水素・アンモニアの安定・安価な供給を可能とする「大規模な需要創出」と、「サプライチェーン」の構築を図るため、「供給インフラ」の整備を国が支援していく方針が示された。今後 10年間で、産業分野での大規模需要が見込まれる大都市圏を中心に「大規模拠点」を 3カ所程度、相当規模の需要集積が見込まれる地域ごとに「中規模拠点」を 5カ所程度整備するとしている。これを受け、各地で「拠点の指定 (誘致) 」を目指した官民連携の動きが活発化している。

「川崎臨海部」は、日本水素エネルギー、岩谷産業、ENEOSが、「新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 」の「グリーンイノベーション基金事業」として行う「大規模液化水素サプライチェーン商用化実証」で、液化水素の受け入れ地に選定された。安価で安定供給が見込める「褐炭」から製造された水素 (グレー水素) が、豪州ビクトリア州ヘイスティングス地区から出荷され、川崎港で受け入れる計画だ。

 受入基地の候補とみられるのが、「JFE スチール東日本製鉄所」京浜地区 (川崎市川崎区扇島) の高炉の跡地。同社は 9月に同地区の高炉の操業を休止した。跡地利用について「JFE ホールディングス」などと協議してきた川崎市は 8月、跡地についての土地利用方針を公表。「水素サプライチェーン商用化実証事業」の受け入れ地として「川崎臨海部」が選定されたことを踏まえ、水素を軸としたカーボンニュートラルエネルギーの受入・貯蔵・供給の拠点形成ができるよう、2028年度から 一部土地利用を開始する方針を示した。

 横浜市は 8月、脱炭素に向けた取り組みを推進する産学官連携組織「横浜脱炭素イノベーション協議会」を立ち上げた。同市をはじめ、ENEOS や東京ガスなど、42の企業・団体が参加。脱炭素への将来像を官民で共有し、GX (グリーントランスフォーメーション) 投資を呼び込みながら、水素・アンモニア、合成メタン、合成燃料など、「次世代エネルギー」の供給・需要の大規模拠点形成を図る。当面は国が指定する水素拠点に選定されることを目指す。

 福岡県は 5月、産学官連携組織「福岡県水素拠点化推進協議会」を立ち上げた。北九州市「響灘臨海部」を中心に水素の大規模拠点を形成し、水素を活用した地域の成長を図る。まずは国による拠点指定の獲得を目指す。会長は 服部誠太郎知事が務め、副会長に北九州市の 武内和久市長、西部ガスの 木下貴夫取締役常務執行役員、九州電力の 穐山泰治取締役常務執行役、日本製鉄の 中田昌宏常務執行役員が就いた。

 水素関連の 19社が「会員」として参加。水素・燃料電池関連の最先端研究拠点である九州大学が、オブザーバーで参加している。海外から調達する水素、地域内の「再生可能エネルギー」を活用して製造する「グリーン水素」、産業分野で発生する副生水素。これら「多様な水素」が活用可能であることを強調する。

 また、「北九州水素タウン」での水素パイプラインを使った技術実証など、これまで様々な「水素関連の先進的な取り組み」を進めてきた強みを生かす。さらに、「太平洋側」だけでなく「日本海側」にも水素拠点を構えることは、「エネルギー安全保障」において重要であることも訴求していく。


 

混焼・専焼技術の拡充、水素発電普及に向けた連携も/川崎重工


 水素需要の創出・拡大を図る上で柱になるのが、「発電用燃料」としての活用だ。川崎重工業は 3月、発電出力 1,800 ~ 3万kw 級まで同社の「コージェネレーションシステム用ガスタービン」全 5機種で、「ドライ式」の「水素混焼燃焼器」の市場投入を完了したと発表した。「ドライ式」は燃焼器内で水や蒸気を噴射せずに、窒素酸化物 (NOX) 排出量を抑えながら高効率発電を実現する燃焼方式。天然ガスに対し、体積比で 30% までの水素の混焼が可能。水素と空気を混合してから燃焼させる「希薄予混合燃焼」を採用し、局所的な高温部分を無くして NOX の発生を抑え、「追焚き燃焼」を組み合わせて安定燃焼を可能とする。

 将来の「カーボンニュートラル」を見据え、こうした「水素 READY 仕様 (水素対応型) コージェネ」を採用する事業者が拡がりつつあるという。同社「エネルギーソリューション&マリンカンパニー/エネルギーディビジョン」の 辰巳康治「水素発電プロジェクト」開発室長は、「水素混焼技術」について…

 

水素の入手が困難な時期は天然ガスで運用し、水素が調達しやすくなれば、水素圧縮機や燃料混合システムなどを追加して混焼化が可能。天然ガスと水素を柔軟に使えるようにすることで、ユーザーは投資コストを抑えながら安心して水素発電を導入できる。

… と指摘する。

 同社は (2023年) 9月、世界初となる「ドライ式」の「水素 100% 燃焼 (専焼) 1,800kw 級ガスタービンコージェネレーションシステム」の販売を開始した。直径 1mm 以下の多数の微小噴射孔から燃料を噴射する「マイクロミックス燃焼技術」を開発。「追焚き燃焼」を組み合わせて水素専焼による安定燃焼・安定出力を実現した。「専焼」だけでなく、体積比 50% ~ 100% の割合で天然ガスとの「混焼」も可能。水素の価格や調達状況に応じて「混焼割合」を柔軟に変えられる。

 

「ドライ式水素専焼」は当社の独自技術。導入当初の「水素混焼」から将来の「水素専焼」までの道筋を示すことで、水素発電の導入促進につなげていきたい。

(辰巳室長)

 日本の産業・民生部門での「消費エネルギー」の約 6割は「熱需要」とされている。電気だけでなく、「カーボンフリーな熱」も供給可能な「水素ガスタービンコージェネ」は、高温の熱を必要とする「産業分野のカーボンニュートラル化」に寄与するとしている。

 こうした「産業分野での水素の活用」を見据え、新たな取り組みも進めている。同社は 9月、川崎市と商用規模の「液化水素サプライチェーン」の構築に向けた「連携協定」を締結。様々な産業が集積する「川崎臨海部」で水素の需要創出を図る。同社「水素戦略本部」の 柏原宏行 カーボンニュートラル推進総括部長は …

 

「商用レベル」の水素サプライチェーンを構築するためには、技術の確立やインフラ整備、コストなど、さまざまな課題を克服していく必要がある。官民で緊密に連携して取り組んでいく。

… と話す。さらに、大手化学メーカーの「レゾナック」と「水素発電事業」の実現に向けて協業すると発表。「液化水素サプライチェーン」が確立される 2030年頃、「川崎臨海部」で 10万kw 級水素発電の「社会実装」を目指す。商用規模の水素発電事業は国内初となる見込みで、「水素利用のロールモデルとなる案件」(柏原部長)と位置付ける。今後、こうした「水素燃料発電」の普及を加速させていく。


 

RTGMS の活用を提案、混合ガス中の水素濃度を管理/理研計器


 水素を発電用の「燃料」、あるいは合成メタン製造の「原料」として活用する際に、「原燃料」に含まれる水素の濃度 (混焼時) や熱量の管理が重要となる。「理研計器」は、複数のガスが混ざった「混合ガス」に関して、各ガス濃度や熱量を測定できる「リアルタイム・ガスモニタリングシステム (RTGMS) 」の活用を提案している。同社の既存の「ガス検知器」や「センシング (探知) 技術」を組み合わせ、一般的な分析機器よりも安価で手軽に導入でき、リアルタイムで測定できる点を特徴とする。

 同社の主力機器の 一つに防爆型熱量計「OHC ― 800」がある。この機器は、都市ガス事業者が都市ガスの「熱量管理」で活用している。天然ガスにはメタンだけでなく、窒素や 二酸化炭素 (CO2) などの不燃性の「雑ガス」も混ざっており、これら「雑ガス」は熱量測定で誤差の原因となる。「OHC ― 800」は、この「雑ガス」の影響を受けずに熱量を測定できる。天然ガスの中を伝わる「光の速度」のデータと「音の速度」のデータを組み合わせた、独自の「オプトソニック演算」により「雑ガス」の影響を排除して、高精度の熱量測定を可能とする。「オプトソニック」とは、光学を意味する「オプティカル」と、音速を意味する「ソニック」を合わせた造語だ。

 RTGMS は、「OHC ― 800」に演算装置である PLC や「ガス検知器」、「センシング技術」を組み合わせて構成され、「複数成分ガス」を区分した「リアルタイムモニタリング (常時測定) 」を可能とする。この組み合わせには 600種類以上の豊富な「センサー・ラインアップ」を持つ同社の強みが生かされる。

 RTGMS は主に、都市ガスと水素の混焼、水素の専焼、水素の製造 (水電解) 、都市ガスとアンモニアの混焼、アンモニアの合成・分解、「メタネーション」などに関する実証や、「技術開発」で活用されている。濃度や熱量を「連続測定」できることで、データを基に燃焼や混合・分解などの「運転制御」を最適化できるとしている。

 例えば、水素と CO2 による「合成メタン」の製造時、あるいはアンモニアの合成・分解時は「OHC ― 800」と PLC を使い、「合成メタン・水素・CO2」「アンモニア・水素・窒素」の 三成分それぞれの濃度をモニタリングする。触媒で反応させる際、一回で 100% 反応とはならずに、未反応の水素・CO2・窒素が生じる。これらの量をリアルタイムで把握し、場合によっては 二回目以降の反応で活用する。一般的な分析装置だと 30分に1回 などの測定による「タイムラグ」が生じるが、RTGMS であれば「リアルタイム」で把握でき、触媒の「反応制御」や原材料の「追加制御」に反映できる。特に「メタネーション」では「合成メタン」の中の水素残量の「常時監視」も可能であり、「合成メタン」の品質向上につなげられるとしている。

 三成分以上の「ガスモニタリング」も可能。例えば「メタネーション」で、窒素パージ (噴入) も含め「合成メタン・水素・CO2・窒素」の 四成分をモニタリングする場合は、「OHC ― 800」に、信号変換器付ガス検知部「SD ― 3 シリーズ」、PLC を組み合わせることで測定できる。

 発電用燃料として都市ガスと水素を「混焼」させて混合前後の熱量や混合後の水素の濃度などを調べる場合は、「OHC ― 800」に、水素の純度測定などで使われている耐圧防爆構造の「光波干渉式ガスモニター/FI ― 900」と PLC を組み合わせる。最適制御によって発電効率の向上につなげられるとしている。

 RTGMS の導入実績で最も多いのは「メタネーション」関係。ガス事業者の「メタネーション事業用」への納入実績も持つ。2030年までに国内外併せ年間 50セットの納入を目指す。




【大容量充填や小型化が進む】

 

海外市場での拡販目指す ― 韓国・北米市場に積極進出/タツノ


 タツノは「大型燃料電池 (FC)トラック」用の水素ディスペンサー (充填器) を開発し、国内外での「水素充填インフラ」の拡張に力を入れている。今年中に韓国の現地法人で生産と直接販売を開始する計画だ。北米でも拡販を図る。

 同社は、電動化が難しい大型商用車分野での「FC トラック」や「FC バス」の普及拡大を想定して、現行モデル約 1.5 倍の充填能力を持つ「ミドルフロー (MF) 」に対応したディスペンサー「LUMINOUSH 2」(ルミナス H2) を開発。NEDO (国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) が福島県浪江町に整備した「福島水素充填技術研究センター」に、1号機を昨年 12月に納入している。

「ルミナス H2」は片面に「MFノズル」を 二本装備しているのが特徴。乗用車タイプの水素自動車 (FCV) には、一本のノズルで充填する。二つの「充填口」を搭載する「FC トラック」には 二本のノズルで同時充填が可能で、充填時間を従来の約 3分の1 となる約 9分に短縮する。これは 一般的な大型ディーゼルトラックに給油する時間と遜色がない。

「水素ステーション (ST) 」は国内の展開が鈍化しているが、韓国や北米では FCV の普及対象を大型商用車に特化して、「水素 ST 」の新規建設が進行している。特に韓国では、「水素 ST 」の建設件数が既に日本を上回っている。

 同社はすでに韓国の企業に技術や部品を提供し、パートナーシップを構築しており、タツノ製の部品「コリオリ流量計」や、技術を使った水素ディスペンサーの韓国国内のシェアは 5割近い。

 また同社は 1970年に設立した、100% 子会社の韓国現地法人「韓国タツノ (KTC) 」で水素ディスペンサーを生産する準備を進めている。

 ディスペンサーの心臓部である「流量計」や「緊急離脱カップリング」「ノズル」は、同社の技術力を生かし「日本で生産」し、KTCに送り「韓国内で調達する部品」と組み合わせて水素ディスペンサーとして製品化する。今年中に KTC が水素ディスペンサーの製造、販売、メンテナンスまで「ワンストップ」で行う体制を整え、(韓国の) 水素インフラの拡充を支援する。

 同社「水素事業部」の 木村潔部長代理は …

 

当社は日・米・韓の 3カ国合わせて 200基近くの水素ディスペンサーを供給してきた実績が強みだ。韓国内のメーカーと「コラボレーション」して、現地でアフターサービス網を構築することで、お客さまに充実したサービスを提供する。2024年で 10台以上の販売を見込んでいる。

… と話す。韓国での「販促」を図るため、今年 (2023年) 9月 13 ~ 15日にコヤン市で開催された「水素展示会:H2 MEET」に KTC が韓国国内で生産した水素ディスペンサーを出展し、「国産品」であることなどで好評を得た。

 一方、「北米市場」はノズル等を「大口径化」し、「HF (ハイフロー) 」で「急速充填」する方式の実用化に向け検討が進んでおり、タツノも「HF タイプ」の水素ディスペンサーを開発済みだ。「HF タイプ」はノズルやホースが重くなり、操作性が悪くなるデメリットがあるが、北米では大型車向けに採用が検討されている。

 米国カリフォルニア州で「水素 ST 」の建設・運営・メンテナンスのトップシェアを持つ「ファーストエレメント・フューエル社」を中心に、拡販を目指している。


 

製品開発を加速 ― 大容量充填機普及に向け/トキコシステムソリューションズ


 トキコシステムソリューションズは、今後普及が期待されている「大型燃料電池 (FC) トラック」に対応する大容量充填が可能な水素ディスペンサーの開発を加速させている。

 同社静岡事業所 (静岡県掛川市)敷地内に昨年 9月、水素ガス充填試験施設「水素先端技術センター」が竣工したことで、自社での大容量の流量試験が可能になった。

同センターでは大容量・高速充填に対応する水素ディスペンサーの研究開発と共に、計量精度などを確認する出荷前試験も行う。今後、大流量ディスペンサーの生産台数が増えた場合の検査数増にも対応可能になった。

 同社は本体片側に 二本のホースとノズルを備え、1分当たりの最大流量を現行機種の 三倍にした高速充填が可能な「MF (ミドルフロー) 」の水素ディスペンサーを開発済みだ。異なる車種 二台への同時充填、あるいは充填口を 二つ持つ「大型 FC トラック」への 二口同時充填を想定している。

 本体は開発済みのため、評価中の MF 充填対応のホースやノズルが市販されれば、すぐに市場投入できる段階にある。

 ただ、水素の充填には車載タンクの急速な温度上昇を抑制するなど、特別な「規格 (プロトコル) 」への対応が必要だ。MF での充填プロトコルは未整備のため、同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) が進めている、「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/水素ステーションの低コスト化・高度化に係る技術開発/HDV用水素充填プロトコルの研究開発」に参画し、「規格化」に協力している。

 同社のこのディスペンサーは、岩谷産業が今年 9月、日本で初めて高速道路のパーキングエリア・サービスエリア (SA) 内に開業した「イワタニ水素ステーション足柄SA」(静岡県御殿場市) に設置済みで、大規模改造をせずに MF に対応可能だ。また、一台のディスペンサーに ニ本のホースを装備した 二台同時充填可能な水素ディスペンサーが、商用ステーションに設置されたのも日本初だ。

 

 

「大型 FC トラック」は現在、いすゞ自動車や日野自動車など国産メーカーが開発を進めている。トキコシステムソリューションズは「大型 FC トラック」普及に足並みをそろえて、MF 水素ディスペンサーを市販化することを目指している。また、同社は NEDO の事業で、一本のホースとノズルで高速充填が可能な HF (ハイフロー) の「充填プロトコル」の開発も進めている。

 中井寛 インフラ・エンジニアリング営業部担当部長は …

 

求められるところに、求められるものを提供するのが当社の方針。将来的に MF に HF のどちらが主流になるか現時点では不明だが、どちらにも対応できるよう商品化に注力している。

… と話す。

一方、最近は「海外市場」の開拓にも注力している。同社が特に期待しているのは、トラックやバスなど「大型 FC 車」の台数が拡大しつつある韓国だ。韓国では同社の LPG のディスペンサーが高シェアを獲得していることに加え、過去にはラッキー金星 (現LG) グループにガソリンディスペンサーの技術を供与したこともある。

 榧根尚之設計開発本部担当本部長は …

 

当社の水素ディスペンサーは、日本国内で過去にさまざまな実証試験を経て信頼性の高い製品を開発してきたことや、豊富な設置実績を背景に、韓国でも耐久性や信頼性の高さに定評がある。

… と説明する。

 韓国以外のアジアや米国への進出を検討している。特に、米国はエネルギー省が全米に水素ハブを設置する構想を発表していることから、今後「有望な市場」と同社は見込んでおり、製品やその構成部品の「認証取得」に着手している。


 

設置面積が従来比 4割縮小 ― 新型「ハイサーブ 300X」を発売/大阪ガスリキッド


 大阪ガスはコンパクト化とコストダウンを実現した、水素製造装置「HYSERVE (ハイサーブ) – 300X」を新開発した。ハイサーブシリーズの「特許」は同社が保有しているが、主に工業用需要家向けの製造・販売は大阪ガスリキッドが対応している。

「ハイサーブ」は都市ガスやプロパン、バイオガスなどを原料にオンサイトで「純度99・999%以上の高純度水素」を製造できるのが特徴。水素の製造能力別に 3タイプがあり、300Xは毎時 300㎥ とシリーズの中で最大の能力を有する。

 300X は水素の製造フローを抜本的に見直し、構成機器数の削減などによって、従来モデルと比較して約 40% のコンパクト化 (設置面積縮小) を実現。これまで液体水素や圧縮水素を受け入れていた工場が「ハイサーブ」を導入する際も、設置場所の自由度が増した。大阪ガスの開発担当者によると、メンテナンス性を考慮しつつ、設置スペースを減らすのに苦労したという。

 水素の製造フローの見直しや、旧型機では別々であった「熱交換器」と「改質器」を 一体型にした。水素の純度を上げる「圧力スウィング吸着 (PSA) 装置」なども設計を見直し、真空ポンプを不要にするなど様々な工夫を施したことで、部品点数を大幅に削減している。真空ポンプを無くしたことで「消費電力」が旧型機に比べ 3 ~ 4割下がったことなどから、ランニングコストが低減するというメリットも生じた。

 さらに、旧型機では本体とは別に「制御盤」を設置する工事が必要だったが、300X は本体に「制御盤」を組み込んだため、設置工事費用も低減している。初号機は「半導体製造工場」に納入が決定している。今後、半導体製造のほか金属加工業など、製品の製造過程で水素を使用する工場向けに拡販を図る。

 大阪ガスリキッドは「ハイサーブ」の販売だけでなく、納入後の「運転管理」や「メンテナンス」などのサービスにも力を入れている点が特徴だ。

 内田睦 水素ソリューション部長は …

 

運転状況の「遠隔監視」や保守費用を含めた「メンテナンスサービス」や、人工知能 (AI) を活用した「故障予兆監視システム」の運用などにより、これまで液体水素や圧縮水素を使用していたお客さま、新規に装置導入されるお客さまは、機器メンテナンスの「専門技術者」がいなくても安心して「ハイサーブ」をご使用いただける。

… と話す。

「ハイサーブ」で製造した水素は、都市ガスやプロパンを原料にしているため「グレー水素」に分類されるものの、「グリーン電力」を使用しない場合の水電解装置の 二酸化炭素 (CO2) 発生量に比べて少ない。「ハイサーブ」でバイオガスやe―methane (e―メタン) を原料にすれば、二酸化炭素発生量は更に少なくなる。大阪ガスでは「環境性」を追求するために、「ハイサーブ」の燃焼排ガス中に含まれる CO2 を回収する装置開発も検討しているという。

 同社は今年 (2023年) 12月 13 ~ 15日に「東京ビッグサイト (東京都江東区) 」で開催される半導体関係の展示会「セミコンジャパン」にブースを出展し、「ハイサーブ」を PR するという。




【FCVの普及をサポート】

 

水素大量供給に対応 ― 5カ年で 1,780億円投資/岩谷産業


 岩谷産業は、今年 6月に発表した中期経営計画「PLAN27」の重点施策の 一つとして「水素戦略」を掲げ、2027年度までの 5カ年で水素関連へ 1,780億円を投資するとした。水素の製造・輸送・利用分野へ積極的に投資し、30年以降の「水素大量供給時代」に備える。同社の取り組みを紹介する。

 製造分野には 5年間で 1,150億円を投資する。内訳は「廃プラスチック由来の水素製造」や、液化水素の国内第4工場建設などだ。「廃プラスチック由来の水素製造」については、岩谷産業、日揮ホールディングス、豊田通商の 三社が事業性調査を行っている。廃プラスチックの「回収量見込み」や需要規模、「補助制度」などについて調査を進めている。

 2030年以降は、海外から大量の「ブルー水素」や「グリーン水素」が輸入される予定だ。「海外の水素サプライチェーン」の開発には 300億円を投資する。ただ、それまでに国内の水素の需要を増やすことが重要だ。現在、工業分野における水素は、「半導体」や「光ファイバー」など多くの分野で使われているが、今後は「脱炭素」を目的とした需要が増える見込み。「水素発電」のほか、製鉄用高炉の「還元剤」としての利用、「メタネーション」の原料、「熱需要」などが注目されている。

 薮ノ成仁 水素バリューチーム部長は、「海外からの輸入と同時に、国内の水素製造にもこだわっていきたい」と話す。

 

 岩谷産業は現在、大阪府堺市の「ハイドロエッジ」、山口県周南市の「山口リキッドハイドロジェン」、千葉県市原市の「岩谷ガス千葉工場」の 三カ所の「製造拠点」から、全国のユーザーに液化・圧縮水素を供給している。三工場の液化水素製造能力は合計年間 1.2億㎥ 。今後、需要拡大が見込まれるため、第4工場の建設を検討している。

「ハイドロエッジ」は、LNG を原料に「改質」で水素を製造しており、他の 二工場は近隣の「電解ソーダ工場」で副次的に製造された水素の供給を受け、圧縮・精製し液化水素を製造している。第4工場の建設場所は現在検討中だが、26 ~ 27年頃の稼働開始を目指す考えだ。「水素需要のあるエリアに建設することになる」(藪ノ部長) としており、関東地区、中部地区などが有力候補となる。

「水素ステーション (ST) 」整備を中心に 330億円を投資する。23年 10月時点で国内 164カ所ある「水素 ST 」の内、岩谷産業が運用に携わっているのは 51カ所だ。岩谷産業は、「四大都市圏」および周辺自治体の市街地から設置をはじめたが、現在は高速道路や物流拠点などへの整備に重点を置いている。

 9月には初の高速道路サービスエリア (SA)・パーキングエリアへの設置となる「イワタニ水素 ST 足柄 SA 」を開所した。24年中には「京浜トラックターミナル 平和島サービスステーション (SS) 」に「岩谷コスモ水素 ST 平和島 (仮称) 」を併設する。どちらも「FC トラック」に対応し、一台当たり 20分程度で充填を完了できる。後者は岩谷産業とコスモ石油マーケティングが折半出資で設立した新会社「岩谷コスモ水素ステーション」が運営する。新会社設立の狙いについて 薮ノ部長は …

 

コスモ石油はトラックが頻繁に給油するサービスステーション (SS) を多く持っている。今後、「FC トラック」の導入が増えていくことが期待されている。コスモ石油の SS に「水素 ST」を併設していくことで、「FC トラック」の需要に応えることができる

… と話す。

「FC バス」向けの ST 整備も進めていく。「岩谷コスモ水素ステーション」は今年、東京都が江東区有明の有明自動車営業所と、同区新砂3丁目の都有地の 二カ所で実施した、「都バス専用水素ST

「FC バス」向けの ST 整備も進めていく。「岩谷コスモ水素ステーション」は今年、東京都が江東区有明の有明自動車営業所と、同区新砂3丁目の都有地の 二カ所で実施した、「都バス専用水素 ST」の整備・運営事業者の募集に応募。二カ所とも同社が整備・運営事業者に決定した。開所時期は両 ST とも25年度以降の予定だ。

 岩谷産業は「都バス専用水素 ST」の運営に携わるのを機に、8月から「FC バス」の都バス 3台に「ラッピング広告」を実施している。広告を通じて同社が水素供給に関わっていることを広く PR する考えだ。


 

製造・輸送・利用で貢献 ― 幅広い水素関連製品を開発/三菱化工機


 三菱化工機は、オンサイト水素製造装置「HyGeia(ハイジェイア)」シリーズを拡販するほか、水素キャリアに「メチルシクロヘキサン (MCH) 」を使用するサプライチェーン「SPERA 水素システム」に向けて、「脱水素ユニット」を納入している。水素の製造工程で排出する 二酸化炭素 (CO2) を「微細藻類屋外培養装置」へ投入、「微細藻類培養」の実証も進めている。「下水バイオガス」由来の水素を使用する「福岡市水素ステーション」の運営にも携わっている。同社が開発を進める水素の製造・貯蔵・輸送・利用技術および、「CO2 利活用技術」を紹介する。

「ハイジェイア」シリーズは、都市ガス 13A や LPG から水素を製造する装置。製造能力 50、100、200、300、500、1,000ノルマル㎥/時の 6機種が主力製品だ。三菱化工機は 8月、カーボンニュートラル都市ガスを原料に 300ノルマル㎥ タイプである「HyGeia ‐ A」で製造した水素を、「水素吸蔵合金タンク」に充填して東京都稲城市の夏祭会場に運搬、可搬型燃料電池で発電した電気を、キッチンカーやステージの音響機器に供給した。こうしたイベントでの水素活用は 10月に福岡県古賀市でも実施した。水素の「認知度向上策」として今後も続ける方針だ。

「ハイジェイア」は「製鉄プロセス」の分野でも採用されている。JFE スチールは、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の「助成事業」として、「製鉄プロセス」の低炭素化を進めている。高炉から発生する排ガス中の CO2 を水素と反応させて「合成メタン」に変換し、「還元剤」として高炉で利用する技術開発を進めている。三菱化工機は、「合成メタン」の製造に使用する水素の供給用として「ハイジェイア」を受注している。

 太陽光発電などの「再生可能エネルギー」で作った電気で水を電解し、水素を製造する技術に注目が集まっている。三菱化工機は、高砂熱学工業と共同で「水電解水素製造装置」の開発を進めており、水素製造量 2.5㎥/時の装置を実証用として納入済み。100㎥/時の大型設備も市場投入に向けて現在開発中だ。

 千代田化工建設などが実証中の「SPERA 水素システム」は、水素とトルエンを化学反応させて MCH を製造、需要地にタンカーで輸送し、荷揚げ後に「脱水素ユニット」でトルエンと水素に分離する輸送方式だ。三菱化工機は水素製造装置「HyGeia」シリーズで培った小型化、パッケージ化技術を活用し「脱水素ユニット」を納入している。千代田化工建設など 4社は、MCH を使ってブルネイから水素を日本に輸送し「ガスタービン発電設備」で燃焼する実証事業を、2020年から実施している。

 回収した CO2 を利活用する「微細藻類屋外培養装置:フォトバイオリアクター」は、「植物プランクトン」などの微細藻類を培養する装置。現在、三菱化工機の川崎製作所で「ハイジェイア」から発生する CO2 を含む排気ガスを「フォトバイオリアクター」に投入し、CO2・水・栄養素微細藻類を培養する実証を行っている。収穫した藻類は、「持続可能な航空燃料 (SAF) の原料」などとして「有望」と診ており、今後「石油代替燃料」「化粧品」「サプリメント」などの製造プラント向けに供給したい考えだ。

「福岡市水素ステーション」は 2014年 ~ 15年度の、国土交通省の「実証事業」で建設・整備された。三菱化工機、福岡市、九州大学、豊田通商の 4社が「下水バイオガス」から「ハイジェイア」を使って水素を製造。「水素ステーション」で燃料電池車への燃料水素の充填に利用した。三菱化工機など 4社は「国の実証」の終了後も 22年度まで「自主研究」として水素ステーションを運用。その後「一旦休止」していたが、22年 9月に設備を福岡市に移管し、市から委託を受けた協議会 (福岡市、西部ガス、三菱化工機など 6社で構成) が「商業運転」を行っている。現在、週に 四日間「営業」している。


 

漏洩検知の製品多様に ― 中国製 FCトラックにも採用/新コスモス電機


 新コスモス電機は水素ステーション向け「漏洩検知器」の他、燃料電池自動車 (FCV) 搭載用の「水素センサー」も販売しており、トヨタ自動車の「MIRAI」に加え、中国メーカーにも採用された。4月からは工場の架空配管など、離れた場所のガス漏洩を「カメラ画像で遠隔検知」できる製品も発売するなど、幅広い用途に対応。水素関連製品の販売領域を広げている。

 ハンディタイプのガス検知器「コスモテクター」シリーズは、メタン・プロパン・水素など幅広い「可燃性ガス」を検知できる製品で、累計販売台数が 10万台を超えるロングセラー商品だ。石油化学工場などをはじめ、「可燃性ガス」を使用するプラント配管の日常点検など、幅広い用途に導入されている。

 21年 7月には同シリーズの新製品「XP ― 3000Ⅱ」を発売した。低濃度から爆発危険濃度までの可燃性ガスを 一台で検知できるほか、耐衝撃性を従来機種よりも向上した。

 FCV の充填設備である「水素ステーション」は、国の「水素基本戦略」に沿っての建設が進められており、10月現在の整備数は全国 164カ所となっている。ここ 1、2年は「大都市圏」や「高速道路のサービスエリア」などを中心に、大型トラック・バスを対象とした「水素ステーション」が増えている。

「水素ステーション」では、始業前と終業時に 200カ所程度の「漏洩点検」を行う。「コスモテクター」シリーズは、「水素ステーション」の点検用としても多くの導入実績があり、将来的に新製品への取り換え需要が出て来ると診ている。

 水素検知器「KD ― 12」「PD ― 12」は、「水素ステーション」の設備の内部に設置する製品だ。「KD ― 12」は水素が漏洩しセンサーまで水素が到達すると検知する「拡散式」で、設置場所は「蓄圧器」や「圧縮機」のパッケージ内、ディスペンサ―内などだ。「PD ― 12」は、本体から離れた場所の気体を導入管で吸引して水素を検知する。設置場所は、水素ディスペンサー内部で、充填用ホースの「カップリング部 (FCV の充填口との接続部) 」の水素漏洩を監視する。「FC トラック」向けの「大型水素 ST」が増えることで、「KD ― 12」「PD ― 12」共に 1ステーション (ST) 当たりの採用数が増えると見込まれる。

 車載用「水素ディテクタ」は、新コスモス電機が 20年にトヨタ自動車の FCV「MIRAI」向けに開発した製品だ。水素タンク上部に 二個、車体フロント部分の「FC ユニット」上部に 一個の、計 三個を設置する。「水素漏洩」を検知すると即時に運転者に警報すると同時に、水素タンクの「元弁」を遮断し水素の供給を停止させる仕組みになっている。

「MIRAI」向けに加え、22年 1月からは「中国メーカー」の「FC トラック」向けにも販売を始めた。「FC トラック」一台に 五個程度の「水素ディテクタ」が搭載されている。営業計画推進部の 岩見知明 商品企画担当部長は …

 

中国の「FC トラック」向けは前年度、3,000個以上の販売実績を上げている。初期は生産が間に合わないくらいの勢いだった。

… と話す。今後の販売増にも大きな期待を寄せている。

 将来は、「海外で製造された液体水素」を輸入するための「貯蔵設備」や、「受け入れ/払い出し設備」の建設が見込まれている。新コスモス電機はこうした「貯蔵設備」や、周辺のコンビナート・工場の配管などでの水素の「検知需要」が高まると診ている。また、水素などのガス漏洩箇所を「カメラ画像で可視化」できる JFE アドバンテック製「エアリークビューアー」のテスト販売を 4月に開始した。

 水素は赤外線などの吸収波長を持たないため、「赤外線式ガス可視化カメラ」では捉えられなかった。そのため地上から離れた場所での検知は難しかった。

「エアリークビューアー」はハンディタイプの「ガス漏洩検知器」で、配管などからガスが大気中に漏洩する際に発する「噴出音」を超音波センサーで検知する。「音圧レベル」の高い箇所が画面上に色付け表示され、漏洩箇所がわかるようになっている。架空配管など近づきにくい箇所でも、10 m 程度までガス漏洩を発見することができる。

 福島県浪江町では、4.5 m の高さに設置したパイプラインで水素の「輸送実証」が行われており、この実証実験設備の点検用に「エアリークビューアー」が採用されている。新コスモス電機は、今後も水素の実証設備やコンビナートなど向けに提案を進めていく考えだ。




【利用拡大で前進、アンモニア】

 

既存サプライチェーン生かす発電、船舶用途での期待大


 アンモニアは、水素と同様、燃焼時に 二酸化炭素 (CO2) を排出しないカーボンニュートラル (CN) な燃料として期待されている。現在の用途のほとんどは「農業用肥料の原料」で世界的に流通しており、「燃料利用」としての実績はこれからだ。経済産業省は有力な「水素キャリア」の 一つとして、水素とセットで支援策等を検討中だ。ここではクリーン燃料アンモニア協会 (CFAA) の 村木茂会長に話を聞いた。併せて、INPEX の「国産天然ガス」を使った「ブルー水素」「アンモニア製造・利用 一貫実証」も紹介する。

 

―― まず、アンモニアの特性は。

「直接燃焼」ができ、既存の燃料と置き換えが可能な、燃焼時に CO2 を排出しない燃料だということ。現在は、主に「天然ガス」を原料にしている。将来的には「再生可能エネルギー由来の水素」を原料にした「CO2 フリー燃料」の「グリーンアンモニア」が増えそうだ。

 現在でも大量に取引されているので「コスト構造」がよく知られている。LP ガスと同様に「マイナス 33 ℃」で液化できるので、大型の「 LP ガスタンカー」で輸送できる。貯蔵タンクも既存の「 LP ガスタンク」を表面処理などすれば流用できる。「長期保存可能」で、貯蔵も制約が厳しくない「10気圧」の「圧力タンク」が使えるため、LNG のように「分散需要」にも対応できる。

 世界的に安全に利用するための「ガイドライン」が整備されていることも、利用拡大のハードルを下げられる要因だ。

 また、以前から言われているように「水素のキャリア」としても、「液体水素」や「 MCH (メチルシクロヘキサン) 」と比べ、「体積当たりの水素含有量」が最も多く、大規模な「海上輸送手段」として優れている。

 

―― 6月に「水素基本戦略」が改定された。

 同戦略は、アンモニアを単なる「水素キャリア」としてだけでなく、直接燃焼させる「次世代燃料・原料」として、「水素と並ぶもの」として位置付けた。「水素/アンモニア合計」の「2030年度の利用目標」は年間 300万tとしている。両者を合わせた今の国内需要は年間 200万tなので、追加的需要は 100万t。この内、アンモニアは過半を占めるだろう。アンモニアは、既に「グローバルなサプライチェーン」が構築されているという点が強みだ。


 

製造と利用の現状


―― アンモニアの生産量の現状や今後は。

「国内需要」は現在年間 100万t。主に、化学品のほか、発電所の「排ガス脱硝用」や「肥料用」に利用されている。海外製造品が ニ割を占めており、その大部分は「化学品用」だ。

「世界的需要」は約 1億 8千万tとされ、国際的に流通しているのは、そのうち約 10% の 1,800万 ~ 2千万tだ。

 アンモニアの生産国は、中東や米国、ロシアなど、原料の「天然ガス」が豊富にある国だ。燃料用途としては、こうした国の「天然ガス」を原料にしているが、製造時の CO2 を分離/貯蔵する「ブルーアンモニア」が、まず活用されるだろう。米国やサウジアラビア、UAE (アラブ首長国連邦) では「燃料としての需要拡大」を見込んだ、「ブルーアンモニア製造」の大規模プロジェクトが進められている。米国では日本企業が「イコールパートナー」を組む年産 100万tクラスのプロジェクトが数件あり、サウジでは 30年までに年産 1,200万tのプロジェクトが進んでいる。

 豪州やチリ、インドなどでは「再エネ資源」が潤沢なため、「グリーン水素」や「グリーンアンモニア」の生産ポテンシャルが高い。水素の場合は「大規模サプライチェーン構築」にはまだ時間がかかる。こうした国からは、アンモニアの形で輸入・利用することが現実的だ。

 

―― コストはどうか。

 国が示した水素/アンモニアの「政策ロードマップ」では、日本着の水素のコスト目標を「 30年に 1ノルマル㎥ 当たり 30円」としている。アンモニアは「水素換算」で同 10円代後半、20円を切る辺りが目標。そのまま利用しても安いが、私たちはアンモニアから水素への「改質 (クラッキング) 」を 5円以下で実現することを目指している。他の輸送方法よりも安く水素を国内導入できるだろう。

 

―― 国内の「アンモニア受入基地」や「サプライチェーン構築」の状況は。

 現在、カーボンニュートラル・ポート (CNP=GHG 排出実質ゼロを目指す港湾) と連携した「アンモニア・ハブ基地」が全国 4カ所 5拠点で検討が進められている。茨城県は「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出推進協議会 (会長 大井川和彦 茨城県知事) 」の下に、地域の産業界を巻き込む形で「アンモニア・サプライチェーン構築/利用ワーキンググループ」を設置し、鹿島港や茨城港 常陸那珂港区の「ハブ基地」化の検討を開始した。

 中部圏では愛知県=岐阜県=三重県の 三県が、「中部圏 水素/アンモニア社会実装推進会議 (会長 大村秀章 愛知県知事) 」で、「サプライチェーン・ビジョン」を策定した。碧南火力発電所 (愛知県碧南市) での「アンモニア需要」などを含め、30年に年間 150万tの「需要目標」を掲げている。

 大阪では、関西電力と 三井物産、三井化学、IHI が大阪の臨海工業地域 (泉北エリア) を対象に、「水素/アンモニア・サプライチェーン」の構築に向けた検討をはじめた。

 山口県周南市 周南コンビナートでは出光興産、トクヤマ、東ソー、日本ゼオン、丸紅などが、「アンモニア供給拠点整備」の基本検討を開始した。愛媛県 今治市 波方ターミナルでは四国電力、太陽石油、大陽日酸、マツダ、三菱商事が「波方ターミナルを拠点とした燃料アンモニア導入/利活用協議会」を今年 4月に設置し、「クリーンエネルギー供給拠点化」に向けた検討を行っている。

 周南と波方では、LP ガスタンクを「アンモニア貯蔵に転用」することを想定する。参加企業は「自家発電」等をアンモニアなど炭素集約度が低い燃料に切り替えることで、「脱炭素社会」でのビジネスに対応できるようにしていく。


 

広がる利用範囲


―― 発電利用については。

 21年に「閣議決定」された「第6次エネルギー基本計画」では、30年度の「電源構成の約 1% を水素/アンモニアで賄う」と明記している。その目標達成を目指し、JERA は来年 (2024年) 3月から、碧南火力発電所で「石炭火力」に「アンモニア 20% を混焼」させる実証を開始する。石炭火力への「混焼」は、あくまで「過渡期の技術」。今後、アンモニア用の大規模なタービンが実用化されれば、アンモニア「専焼」発電が増えていくと考えている。

 

―― 船舶燃料への利用はどうか。

 7月に IMO (国際海事機関) が、船舶から排出される温暖効果化ガス (GHG) を 50年までに「実質ゼロ」にする目標を掲げた。これまでの「 50% 削減目標」を大幅に引き上げた。国内では、日本郵船などが 24年までに「内航船 (タグボート) 用のアンモニア燃料エンジン」を完成させ、26年までに「外航船用の大型エンジン (アンモニア 80% 混焼) 」を完成させる予定だ。

 JERA や日本郵船などは 27年以降、アンモニアの輸送を「アンモニア燃料船」で行う計画を検討している。

「アンモニア燃料船」の安全性への対応については、船会社や造船会社が協議をしている。「エンジンルーム」に人が入らない「リモートオペレーション」を基本とする。「エンジンルーム」に入らなければならない場合も、防具や強制排気、ウォーターシャワーなど、複合的な安全対策を施すことを検討している。

「安全」だけでなく「安心」も大事だ。船舶だけでなく、アンモニア全般に言えることだが、使用用途が広がるのでより多くの市民を対象にした「安全性の理解促進」や「リスク・コミュニケーション」にも力を入れていきたいと考えている。

 

―― 日本が強みを持つアンモニアの技術は。

「燃焼技術」が挙げられるだろう。三菱重工業と IHI が世界をリードしている。三菱重工は中型の 4万kw 級の「アンモニア直接燃焼タービン」を開発中だ。大型の「40万kw タービン」の開発も進めている。アンモニアを「タービン排熱」によって「クラッキング」して出てきた水素を、燃焼させる技術だ。

 IHI は、2千kw 級の「アンモニア専焼タービン」の実証を昨年実施しており、25年までに実用化するとしている。さらに 4万 ~ 30万kw 級の「専焼タービン」を 30年までに実用化することを計画している。

「工業炉」の開発も、日本が先行している。AGC と大陽日酸、東北大学、産業技術総合研究所は、6月に「ガラス溶解炉」の実証に成功している。AGC は 26年以降にアンモニアを使った「ガラス溶解炉」の本格導入を検討している。大陽日酸では他の工業炉への展開も検討している。


 

アンモニアの「真価」


―― 改めてアンモニアへの期待は。

 アンモニアを持続的に利用するには、LNG のように「需要側による長期のコミットメント」が必要だ。7月に三井物産は世界最大のアンモニアメーカー、米国の「CF インダストリー」と、米国メキシコ湾での「クリーンアンモニア生産」の「共同開発契約」を締結した。また、JERA も 1月に「CF インダストリー」と、「ブルーアンモニア製造」の共同開発について、協業するための覚書を交わしている。10月には三菱商事とスイスの「プロマン社」が、米国での「クリーンアンモニア製造」の検討調査について協力覚書を締結した。

 いずれも日本は「イコール・パートナーシップ」の下、アンモニアを調達できそうだ。LNG プロジェクトではできなかったが、これからは「コスト構造」の議論もできるようになる。これは日本における「エネルギー・サプライチェーン構築」では初めてのことと考えている。これがアンモニアの「真価」だ。

 また、米国の「インフレ抑制法 (IRA) 」による支援も活用すれば、「日本の資金」が海外に 一方的に流れることを防ぎ、適切な価格でエネルギーを調達できると確信している。

 

柏崎市で 一貫製造/利用「ブルー水素」「アンモニア」の実証/INPEX

 INPEX は新潟県柏崎市で、国内で初となる「ブルー水素」「アンモニア」の製造・利用を 一貫して行う「実証試験」を、2025年夏を目途に開始する。今夏にはプラントの建設が開始され、年明けには「水素/アンモニア」製造時に排出される二酸化炭素 (CO2) を地下に封入するための「圧入井」の掘削もはじめる。

 この「実証」は、生産を終了している同社の「東柏崎ガス田 (枯渇ガス田) 」がある平井地区で実施している。以前はガスの「生産井」と生産設備、「コンデンセートタンク」などがあった場所だ。ここで、長岡市で生産している同社の「南長岡ガス田」の「天然ガス」を原料に、「水素/アンモニア」を製造する。製造に伴う CO2 は「東柏崎ガス田」の貯留層に圧入して「EGR (ガス増進回収) 」を実施して、ガス田内に残った「天然ガス」を回収して、プラントで利用する可能性も検討する。

 このプラントの核となる設備は、① 外部からの熱供給を必要としない「 ATR (自己熱改質法) 」を使った水素製造装置、② 水素製造時に発生する CO2 の分離/回収装置、③ CO2 の地下への圧入装置、④ 低温低圧でアンモニアを製造する装置 ―― だ。この構成で年間 700t規模の「水素製造」を目指す。そのうち 600tの水素は、敷地内にある「水素専焼のガスエンジン」で発電 (出力千kw) して電力網に流す予定。また、100tの水素から生産される「アンモニア」は販売される予定だ。いずれも電力やアンモニアの「売り先」はまだ決まっていない。

 なお、EGR の「実証」では、CO2 は年間約 5,500tの「圧入」を予定している。

 同実証のリーダーを務める 古座野洋志 INPEX 水素/CCUS 事業開発本部 技術開発ユニット 副ジェネラルマネージャーは、「この柏崎での試みで経験を積んでノウハウを取得し、今後、県内でブルー水素の商業事業を立ち上げていきたいと考えている。INPEXVISION@2022 (長期戦略と中期経営計画) にあるように、当社では 30年ごろには海外事業も含め年間 10万tの水素/アンモニアを取り扱っていきたい」と話す。また、アンモニアについても「クリーンなアンモニア事業は、参入先の候補、対象事業の候補を現在検討している最中だ」と語る。

 




【水素を発電用燃料に活用】

 

高砂水素パーク本格稼働、「一気通貫」の開発で競争力強化/三菱重工


 三菱重工業は「水素焚きガスタービン」の開発に注力し、「脱炭素社会」においてもトップシェアを目指す。同社は 9月、ガスタービン生産拠点の高砂製作所 (兵庫県高砂市) に、「高砂水素パーク」を整備し、本格稼働を開始した。水素の製造・貯蔵から水素燃料の発電まで、設計・製造・実証を「一気通貫」で行える開発・実証拠点を構え、さらなる競争力強化を図る。

 まずは、水素 30% (体積比)「混焼」発電の実証試験を年内に行う。高砂製作所内の実証設備「複合サイクル発電所 (第二 T地点) 」のガスタービン・コンバインドサイクル (GTCC) 式大型ガスタービン (56万 6千kw 級)を使い、水素と空気の混合気を燃焼器内に噴射する予混合燃焼により、燃焼器内への水の噴射を不要とし、窒素酸化物 (NOX) 抑制と高効率発電の両立を実現する。来年は水素「混焼」率を 50% に高めて試験を行う予定。2025年に水素「混焼」大型ガスタービンの商用化を目指す。

 水素「専焼」発電の開発にも取り組む。微小ノズルから水素を噴射して逆火を防ぐ「マルチクラスター」と呼ばれる燃焼方式を用いる。来年、中小型ガスタービン (4万kw 級)を使って実証試験を行う。中小型ガスタービンは 25年に、大型ガスタービンは 30年までに、水素「専焼」の商用化を目指す。

 大型ガスタービンでの水素「専焼」の場合、毎時約 30tの水素を消費する。水素発電は「大規模な水素需要」を創出し、水素コスト削減を促進する役割も担う。

「高砂水素パーク」では、発電用に使う大量の水素を効率的に製造する技術開発にも取り組んでいる。同社が出資しているノルウェーの「ハイドロジェンプロ社」による「アルカリ水電解装置」を設置し、今秋から稼働させた。水素製造能力は、稼働中のアルカリ水電解装置としては世界最大規模の毎時 1,100ノルマル㎥ 。長期稼働による信頼性を確認する。

 SOFC (固体酸化物形燃料電池) とは「逆反応」で水素を効率的に製造する SOEC (固体酸化物形電解セル) の実証機も来年設置する予定。「円筒セル」を 400本程度束ねたカートリッジを 4本並べる 400kw級「デモ機」で実証を行う。26年ごろ 5千kw級までスケールアップさせる。

 このほか、「アルカリ水電解」よりもコンパクト化が可能な「アニオン交換膜 (AEM) 水電解」や、メタンを水素と「固体炭素」に熱分解する「ターコイズ水素技術」など、次世代技術の実証も順次行う。

 製造した水素はボンベで貯蔵する。貯蔵容量10kgのボンベを現在の 350本から来年は 1,050本 (約11t) まで増やす。

 シニアフェローの 東澤隆司 エナジードメイン GTCC 事業部長は …

 

第二 T地点のような「自前の発電設備」を持ち、ガスタービンの設計・製造・実証を「一気通貫」で行えるのは当社だけ。「信頼性の高さ」が強みとなり、ガスタービンでのトップシェアにつながっている。(「高砂水素パーク」を整備し) 水素ガスタービンについても同様に「高い信頼性」を確保できる。

… と語った。


 

コージェネや燃料電池の実証、ヤンマークリーンエナジーサイト/ヤンマー


 ヤンマーグループは、船舶用の「水素燃料電池システム」の商品化に続き、「発電分野」でも水素の活用に取り組んでいる。ヤンマーエネルギーシステムは 9月、同社の岡山試験センター (岡山市) に実証施設「ヤンマークリーンエナジーサイト」を開設した。開発中の燃料電池発電システムや、都市ガス・水素「混焼」コージェネレーションシステム、水素製造装置などを設置。発電効率や耐久性などを確認し、「メンテナンス性」「メンテナンスコスト」などを検証する。顧客のニーズに応じて各機器を組み合わせ、「低/脱炭素化」に寄与する「カーボンニュートラル (CN) パッケージ」として提案することを目指す。顧客などに同サイトについて説明するための「ユニットハウス」も設け、脱炭素化に貢献する「水素関連の技術ラインアップ」を PR していく。

 燃料電池発電システム (発電出力 35kw )は、トヨタ自動車製の「燃料電池スタック」を用いた「固体高分子形燃料電池 (PEFC):モノジェネタイプ」で、「コージェネ仕様」の開発も視野に入れる。年度内に開発を完了させ 2024年度の販売開始を目指す。

 水素「混焼」マイクロコージェネ (発電出力 35kw )は、既存の「都市ガス仕様」のマイクロコージェネの部品を 一部「交換」するだけで約 20% の水素「混焼」を可能にする。商品化時期は未定としている。

 輸入販売を予定している 独 2G (ツージー) 社製の水素「専焼・混焼」エンジンコージェネ (110 kw )も設置した。

 これら実証機で使う水素は「カードル」で岩谷産業から供給を受けるほか、独 エナプター社製の「AEM 水電解装置 (水素製造能力毎時 14ノルマル㎥ ) 」も設置し、同サイトで「製造」も行う。最大貯蔵量 235ノルマル㎥ の水素貯蔵タンクも設置した。「混焼」コージェネでは、岡山ガスが供給する CN 都市ガスを活用する。熱と電気の需要に応じて「ヤンマーエネルギーマネジメントシステム (Y―EMS)」でこれらの機器を「最適制御」する実証試験も行う計画だ。


 

マンションに 5kw 燃料電池、CN 実現に効果的活用を検証/長谷工


 長谷工コーポレーションは、長谷工グループで推進している賃貸マンションプロジェクト「サステナブランシェ本行徳」(千葉県市川市)に、発電出力 5kw のパナソニック製「純水素型燃料電池 (固体高分子形燃料電池 PEFC):H2 KIBOU」一台 (モノジェネタイプ) を設置し、発電した電気を同マンションに供給する実証実験を 10月から開始した。「H2 KIBOU」がマンションに設置されるのは初めて。カーボンニュートラル (CN) 時代の「マンションでの水素の活用」を見据え、燃料電池の効果的な活用方法を探る。

「サステナブランシェ本行徳」は、既存マンションの価値向上と「住まいの新たな価値創造」に向けた研究開発の推進を図るため、長谷工グループが既存企業社宅をリノベーションし、建物運用時の CO2 排出量「実質ゼロ」を実現する国内初の賃貸マンションとして完成させた。「非化石証書付き電力」を調達するほか、太陽光発電 (出力計 20kw ) や「燃料電池」の電気を活用する。

「H2 KIBOU」は、天候に左右されずに安定した発電ができ、業界最高の発電効率 56% を実現する。約 1分で起動でき、「ピークカット運転」にも利用が可能。10台を連携させて 1ユニットとし、出力を拡大させることもできる。「停電対応ユニット (抵抗器ユニットと無停電電源装置) 」を接続すれば、停電時でも発電を継続し、最大 2・5kvA の電力を 120時間使える。

 同マンションには岩谷産業がボンベで水素を供給。7㎥ のボンベ 10本を設置し、24時間発電できる。実証では、太陽光発電の発電出力が小さく同マンションの電力負荷が大きい時に「H2 KIBOU」を稼働させてデータを取り、「電力ピークカット」や省エネに寄与する効果的な運転を探る。

 長谷工コーポレーションの 若林徹執行役員は …

 

将来、「水素インフラ」が整備される時のことを考え、マンションでどう使えるのかを今から検証していく。

… と語った。今後は、マンションでの「純水素型燃料電池」の活用範囲の拡大を図るため、このプロジェクトで得られる知見を生かし「水素の活用方法」についての研究・実証を進める方針だ。


 

液体水素用仕切弁を開発、高圧化・大口径化など拡充図る/平田バルブ工業


 平田バルブ工業は、「2050年 カーボンニュートラル (CN) 」に向けた「液体水素の需要拡大」を見据え、液体水素「プロセスライン」用の仕切弁を開発した。液体水素を用いた「漏えい試験」を行い、マイナス 253度の極低温でも機能する「実用可能な締切力」を確認したとしている。今後「高圧化」「大口径化」を進めるほか「逆流防止弁」の開発に取り組むなど、「製品ラインアップ」の拡充を図るとともに「供給体制」を整備していく。

 同社は、LNG 用の「極低温領域バルブ」を開発し、東京ガスの「根岸 LNG 基地 (横浜市) 」をはじめ、国内の多くの LNG 関連施設に納入してきた実績を持つ。LNG 用バルブの開発で培った技術・知見を生かし、液体水素「プロセスライン」用の「玉形弁」も開発。「宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 種子島宇宙センター」の「ロケット燃料供給設備」に採用され、現在も活用されている。

 水素が「発電用燃料」として大量に扱われる時代を見据え、今後整備されていく「液化水素」の出荷・受入基地に対し、新開発の液体水素「プロセスライン」用仕切弁を積極的に提案していく。

 

 

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