風知空知

原発がどんなものか知ってほしい

平井 憲夫
1997年



 1. 私は「原発反対運動家」ではありません


 20年間、原子力発電所の「現場」で働いていた者です。原発については、「賛成」だとか …「危険」だとか …「安全」だとかと、いろんな論争がありますが、私は、“原発とはこういうものですよ” と、ほとんどの人が知らない「原発の中」の話をします。

 そして最後まで読んでいただくと、原発がみなさんが思っていらっしゃるようなものではなく、日々「被曝者」を生み、大変な「差別」を生んでいるものでもあることが、良くわかると思います。

 はじめて聞かされる話も多いと思います。どうか最後まで読んで、それから、原発をどうしたらいいか?を、みなさんで考えられたらいいと思います。

 原発について、「設計の話」をする人はたくさんいますが、私のように「施工」…「原発を造る話」をする人がいないのです。しかし、「現場」を知らないと原発の本当のことはわかりません。

 私は、プラント (大きな化学製造工場など) の「配管」が専門です。20代の終わり頃に「日本に原発を造る」というのでスカウトされて、原発に行きました。ただの作業員だったら何十年働いてもわかりませんが、「現場監督」として長く働きましたから、「原発の中」のことはほとんど知っています。




 2. 「安全」は机上の話


 去年、1995年 1月 17日に阪神大震災が起きて、国民の中から「地震で原発が壊れたりしないか?」という、不安の声が大きくなりました。


原発は地震で本当に大丈夫か?


… と。しかし、決して大丈夫ではありません。国 (政府) や電力会社は、「耐震設計を考え、固い岩盤の上に建設されている ので安全だ」と強調していますが、これは「机上の話」です。

 この地震の「次の日」に私は神戸に行ってみて、あまりにも「原発との共通点」の多さに、改めて考えさせられました。まさか「新幹線の線路が落下」したり、「高速道路が横倒し」になるとは、それまで国民のだれ 一人、「考えてもみなかった」と思います。

 

 

 世間 一般に「原発」「新幹線」「高速道路」などは、「官庁検査」によって厳しい検査が行われている … と思われています。しかし、新幹線の橋脚部のコンクリートの中には「型枠の木片」が入っていたし、高速道路の支柱の鉄骨の溶接は「溶け込み不良」でした。一見、溶接がされているように見えていても、溶接そのものがなされていなくて、溶接部分が全部外れてしまっていました。

 なぜこのような事 (過失) が起きてしまったのでしょうか?その「根本」は、あまりにも「机上の設計」ばかりに重点を置いていて、現場の「施工管理」を怠ったからです。それが「直接の原因」ではなくとも、このような事が起きてしまうのです。




 3. 「シロウト」が造る原発


 原発でも、「原子炉」の中に針金が入っていたり …「配管」の中に道具や工具を入れたまま「配管」を継いでしまったり、いわゆる「人が間違える事故 (ヒューマンエラー) 」があまりにも多すぎます。それは、現場に「プロの職人」が少なく、いくら「設計」が立派でも「設計通り」には造られていないからです。「机上 (理論上) の設計」の議論は、「最高の技量」を持った職人が施工することが絶対条件です。

 しかし、「原発を造る人」がどんな「技量」を持った人であるのか …「現場」がどうなっているのか … という議論は、一度もされたことがありません。原発にしろ建設現場にしろ、作業者から検査官まで「総 (オール) シロウト」によって造られているのが「現実」ですから、「原発」「新幹線」「高速道路」などがいつ「大事故」を起こしても、不思議ではないのです。

 日本の原発の「設計」も優秀で、二重=三重に「多重防護」されていて、どこかで故障が起きると「ちゃんと止まる」ようになっています。しかし、これは「設計」の段階までです。「施工」…「造る段階」でおかしくなってしまっているのです。仮に … 自分の家を建てるときに、立派な「一級建築士」に「設計」をしてもらっても、大工や左官屋の腕前が悪かったら雨漏りはするし、建具は合わなくなったりしますが、残念ながら、これが「日本の原発」なのです。

 ひと昔前までは、現場作業には「棒心 (ぼうしん) 」と呼ばれる職人 (現場の若い監督以上の経験を積んだ職人) が、班長として必ずいました。職人は自分の仕事にプライド (誇り) を持っていて、「事故や手抜きは恥だ」と考えていましたし、「事故の恐ろしさ」もよく知っていました。

 それが 、十年くらい前から現場に職人がいなくなりました。全くの「シロウト」を「経験不問」という形で募集しています。「シロウト」の人は「事故の怖さ」を知らない。何が「不正工事」やら「手抜き」かも、全く知らないで作業しています。それが今の原発の「実情」です。

 

 

 たとえば、東京電力の「福島原発」では「針金」を原子炉の中に落としたまま運転していて、一歩間違えれば「世界中を巻き込むような大事故」になっていたところでした。本人は「針金」を落としたことは知っていたのに、それがどれだけの大事故につながるかの「認識」は全く無かったのです。そういう意味では「老朽化した原発」も危ないのですが、「新しい原発」も「シロウトが造る」という意味で、危ないのは同じです。

 現場に職人が少なくなってから「シロウト」でも造れるように、工事が「マニュアル化」されるようになりました。「マニュアル化」というのは「図面」を見て造るのではなく、工場である程度「組み立てた物」を持って来て、現場で ①番と①番 … ②番と②番 … というように、ただ「積み木」を積み重ねるようにして、合わせていくんです。

 そうすると、今「自分が何をしているのか」…「どれほど重要なことをしているのか」… 全くわからないままに、造っていくことになるのです。こういうことも、「事故」や「故障」が頻繫に起こるようになった原因の 一つです。

 また、原発には放射能の「被曝」の問題があって、後継者を育てることができない職場なのです。原発の「作業現場」は暗くて暑いし、「防護マスク」も付けていて、お互いに話をすることもできないような所ですから、「身振り=手振り」なんです。これでは「ちゃんとした技術」を教えることはできません。

 それに、いわゆる「腕のいい人」ほど「年間の (被爆) 許容線量」を先に越えてしまって、現場に入れなくなります。だから余計に「シロウトでもイイ」ということになってしまうんです。

 また、たとえば「溶接の職人」ですと「目」がやられます。30歳を過ぎたらもうダメで、「細かい仕事」ができなくなります。そうすると「細かい仕事」が多い「石油プラント」などでは「使いもの」になりませんから、「だったらまあ、日当が安くても原発の方にでも行こうかなあ」ということになります。

 皆さんは何か「勘違い」していて、原発というのは「とても技術的に高度なもの」だと思い込んでいるかも知れないけれど、そんな「高度なもの」ではないのです。ですから「シロウト」が造る原発ということで、原発はこれから先、本当にどうしようもなくなっていきます。




 4. 名ばかりの検査/検査官


「原発を造る職人がいなくなっても、検査をキッチリやればイイ」と言う人がいます。しかし、その「検査体制」が問題なのです。「でき上がったものを見る」のが日本の検査ですから、それではダメなのです。検査は「施工の過程」を見ることが重要なのです。検査官が溶接なら溶接を、「そうではない、よく見ていなさい。このようにするんだ」と、自分でやって見せる「技量」が無いと「本当の検査」にはなりません。そういう「技量」の無い検査官に、まともな検査ができるわけがないのです。

 メーカー (日立・三菱・東芝) や施主 (電力会社など) の説明を聴き、「書類」さえ整っていれば「合格」とする。これが今の「官庁検査」の実態です。

 原発の事故があまりにも頻繫に起き出した頃に、「運転管理専門官」を各原発に置くことが「閣議」で決まりました。原発の「新設」や「定検 (定期検査) 」の後の、「運転許可を出す役人」です。私もその役人が「シロウト」だとは知っていましたが、ここまで酷いとは知らなかったです。というのは、水戸で講演をしていた時に会場から、「実は恥ずかしいんですが、まるっきりシロウトです」と、科技庁 (科学技術庁) の者だとハッキリ名乗って発言した人がいました。その人は …

 

自分たちの職場 (科技庁) の職員は、「被曝」するから絶対に現場に出さなかった。折からの行政改革で「農水省の役人が余っている」というので、昨日まで「養蚕の指導」をしていた人や「ハマチ養殖の指導」をしていた人を、次の日には「専門検査官」として赴任させた。美浜原発にいた「専門検査官」は、三ヶ月前までは「お米の検査」をしていた人だった。

… と、その人たちの「実名」を出して話してくれました。

 このように、全くの「シロウト」が出す原発の「運転許可」を信用できますか?東京電力の「福島原発」で「緊急炉心冷却装置 (ECCS) 」が作動した大事故が起きた時、読売新聞が「現地専門官、カヤの外」と報道していましたが、その人は自分の担当している原発で大事故が起きたことを、次の日の「新聞」で知ったのです。なぜ「専門検査官」は何も知らなかったのか?

 それは、電力会社の人は「専門検査官」が全くの「シロウト」であることを知っていますから、火事場のような騒ぎの中で「子供に教える」ようにいちいち説明する時間が無かったので、その人を現場にも入れないで放って置いたのです。だから何も知らなかったのです。

 そんな「イイ加減な人」の下に「原子力検査協会」の人がいます。この人がどんな人かというと、この「協会」は、通産省を定年退職した人の「天下り先」ですから、全く「畑違い」の人です。

 この人が原発の工事の「あらゆる検査の権限」を持っていて、この人の「OK」が出ないと仕事が進まないのですが、「検査」のことは何も知りません。ですから「検査」といっても「ただ見に行くだけ」です。けれども大変な「権限」を持っています。

 この「協会」の下に電力会社があり、その下に「原子炉メーカー」の日立・東芝・三菱の 三社があります。私は日立にいましたが、この「メーカー」の下に「工事会社」があるのです。つまり「メーカー」から上も「シロウト」、その下の「工事会社」もほとんど「シロウト」ということになります。だから原発の事故のことも、電力会社ではなく「メー力-」でないと詳しいことはわからないのです。

 私は「現役の頃」も … 辞めてからもズっと言っていますが、「天下り」や「特殊法人」ではなく、本当の「第三者的な機関」… 通産省は原発を「推進」していますから (利益関係者) 、そういう所と全く関係の無い機関を設立して、その機関が「検査」をする。

 そして「検査官」は、「配管」のことなどの経験を積んだ人 (現場の叩き上げの職人) が「検査」と「指導」を行えば、「溶接の不具合」や「手抜き工事」も見抜けるからと 一生懸命に言ってきましたが、今だに何も変わっていません。

 このように日本の「原発行政」は、あまりにも「無責任」で「お粗末」なものなんです。




 5. イイ加減な「原発の耐震設計」


「阪神大震災」の後に、慌ただしく日本中の原発の「耐震設計」を見直してその結果を 9月に発表しましたが …


どの原発も、どんな地震が起きても大丈V


… という「呆れた」ものでした。私が関わった限りでは、はじめの頃の原発では「地震」のことなど真面目に考えていなかったのです。それを、「新しい」のも「古い」のも 一緒くたにして「大丈夫」だなんて、とんでもないことです。

 1993年に「女川原発」の 一号基が、「震度4」くらいの地震で「出力が急上昇」して「自動停止」したことがありましたが、この事故は「大変な事故」でした。なぜ大変だったかというと、この原発では 1984年に「震度5」で止まるような工事をしているのですが、それが「震度5」ではないのに止まったんです。わかり易く言うと「高速道路」で車を運転中に、ブレーキを踏まないのに突然、急ブレーキがかかって止まったのと同じことなんです。

 これは東北電力が言うように「止まったからよかった」というような、簡単なことではありません。「5」で止まるように「設計」されているものが「4」で止まったということは、「5」で止まらない可能性もあるということなんです。つまり、いろんなことが …


「設計通り」にはいかない


… ということの現われなんです。

 こういう「地震で異常な止まり方をした原発」は、1987年に「福島原発」でも起きていますが、「同じ型の原発」が全国で 10基もあります。これは「地震と原発」のことを考えると、非常に恐ろしいことではないでしょうか?

 




 6. 「定期点検工事」も「シロウト」が


 原発は 一年くらい運転すると「必ず止めて検査をする」ことになっていて、「定期検査 (定検) 」と言っています。原子炉には「70気圧」とか「150気圧」とかいう「ものすごい圧力」がかけられていて、「配管」の中には水が … 水といっても 300℃もある熱湯ですが、水や水蒸気がすごい勢いで通っていますから、「配管」の厚さが半分くらいに薄くなってしまう所もあるのです。

 そういう「配管」とか「バルブ」とかを「定検」でどうしても取り替えなくてはならないのですが、この作業に必ず「被曝」がともなうのです。原発は 一度動かすと中は放射能 (放射線) でいっぱいになりますから、その中で作業者が「放射線を浴びながら」働いているのです。

 そういう「現場」へ行くには、自分の服を全部脱いで「防護服」に着替えて入ります。「防護服」というと「放射能から体を守る服」のように聞こえますが、そうではないんですよ。「放射線の量」を計る「アラームメーター」は「防護服」の中のチョッキに着けているんですから。

 つまり、「防護服」は放射能を外に持ち出さないための「単なる作業着」です。作業している人を「放射能から守るもの」ではないのです。だから作業が終わって外に出る時にはパンツ ー枚になって、「被曝」していないかどうか「検査」をするんです。

 体の「表面」に放射能が着いている … いわゆる「外部被曝」ですと、シャワーで洗うと大体流せますから、放射能が「ゼロ」になるまで徹底的に (体を) 洗ってから、やっと外に出られます。

 また「安全靴」といって、備え付けの「作業靴」に履き替えますが、この靴もサイズが自分の足にピッタリと合うものはありませんから、大事な「働く足元」がシッカリと定まりません。それに、放射能 (放射性物質) を吸い込まないように「全面マスク」を付けたりします。そういう恰好で「現場」に入り、放射能の心配をしながら働くわけですから、実際、原発の中では「好い仕事」は絶対にできません。「普通の職場」とは全く違うのです。

 そういう仕事をする人が 95% 以上、まるっきりの「シロウト」です。「お百姓さん」や「漁師さん」が、自分の仕事が暇な「冬場」などにやります。言葉は悪いのですが、いわゆる「出稼ぎ」の人です。そういう「経験の無い人」が、「怖さ」を全く知らないで作業をするわけです。

 たとえば、ボルトをネジで締める作業をするとき、「対角線に締めなさい。対角線に締めないと (放射能が) 漏れるよ」と教えますが、作業する現場は「放射線管理区域」ですから、放射能がいっぱいあって「最悪な所」です。

「作業現場」に入るときは「アラームメーター」を着けて入りますが、「現場」は場所によって「放射線の量」が違いますから、「作業の出来る時間」が違います。「分刻み」です。「現場」に入る前にその日の作業と時間 … 時間というのは、その日に浴びてよい「放射能の量」で (作業の) 時間が決まるわけですが、その「現場」が 20分間「作業」ができる所だとすると、20分経つと「アラ-ムメーター」が鳴るようにしてある。だから、「アラームメーターが鳴ったら現場から出なさいよ」と指示します。

 でも「現場」には時計がありません。時計を持って入ると時計が放射能で「汚染」されますから「腹時計」です。そうやって「現場」に入ります。そこではボルトをネジで締めながら …


“ もう、10分は過ぎたかな?… 15分は過ぎたかな?”


… と頭は「そっちの方」ばかり気になります。「アラームメーター」が鳴るのが怖いですから。「アラームメーター」というのは “ビーッ!” っと、とんでもない音がしますので、初めての人はその音が鳴ると「顔から血の気が引く」くらい怖いものです。これは経験した者でないとわかりません。“ビーッ!” っと鳴ると、レントゲンなら何 十枚もいっぺんに写したくらいの「放射線の量」に当たります。

 ですから「ネジを対角線に締めなさい」と言っても、言われた通りにはできなくて、「ただ締めればいい」と、どうしてもイイ加滅になってしまうのです。するとどうなりますか?




 7. 放射能「垂れ流し」の海


 冬に「定検工事」をすることが多いのですが、「定検」が終わると、海に放射能を含んだ水が何 十トンも流れ出てしまうのです。ハッキリ言って、いま日本列島で取れる魚で「安心して食べられる魚」はほとんどありません。日本の海が放射能で「汚染」されてしまっているのです。

 海に放射能を含んだ水を「垂れ流す」のは、「定検」の時だけではありません。原発はすごい熱を出すので、日本では「海水で冷やして」その水を海に捨てていますが、これが「放射能を含んだ温排水」で、一分間に何 十トンにもなります。

 原発の事故があっても、県などは慌てて「安全宣言」を出しますし、電力会社はそれ以上に「隠そう」とします。それに国民のほとんども「無関心」ですから、「日本の海」は汚れっ放しです。

「防護服」には「放射性物質」がいっぱい付いていますから、それを最初は「水洗い」して、全部海に流しています。「排水口」で放射線の量を計ると、すごい量です。こういう場所で「魚の養殖」をしています。「安全な食べ物」を求めている人たちはこういうことも知って、原発にもっと関心を持って欲しいものです。このままでは、「放射能に汚染されていない食品」を選べなくなると思いますよ。

 

福島原発事故で本当に怖いのは魚介汚染

 

 数年前の石川県の「志賀原発」の「差止め裁判」の報告会で、80歳近い「行商をしているおばあさん」がこんな話をしました。

 

私は今まで原発のことを知らなかった。今日、昆布とワカメをお得意さんに持っていったら、そこの若奥さんに … “悪いけどもう買えないよ。今日で終わりね、志賀原発が運転に入ったから” って言われた。原発のことは何もわからないけど、初めて「実感」として原発のことがわかった。どうしたらいいのか?

… と、途方に暮れていました。みなさんの知らない所で、「日本の海」が放射能で「汚染」され続けています。




 8. 「内部被爆」が 一番怖い


 原発の「建屋の中」では、すべての物が「放射性物質」に変わっていきます。物がすべて「放射性物質」になって、「放射線」を出すようになるのです。どんなに厚い鉄でも「放射線」が突き抜けるからです。体の外から浴びる「外部被曝」も怖いですが、一番怖いのは「内部被曝」です。

 ホコリ … どこにでもあるチリとかホコリ。原発の中ではこのホコリが、「放射能」を浴びて「放射性物質」となって飛んでいます。この「放射能」を浴びたホコリが口や鼻から入ると、それが「内部被曝」になります。原発の作業では「片付け」や「掃除」で 一番「内部被曝」をしますが、この、体の中から「放射線」を浴びる「内部被曝」の方が、「外部被曝」よりもズっと危険なのです。体の中から直接「放射線」を浴びるわけですから。

 体の中に入った「放射能」は、通常は 三日くらいで「汗」や「小便」と 一緒に出てしまいますが、三日なら 三日、「放射能」を体の中に置いたままになります。また「体から出る」といっても、人間 (学者) が勝手に決めた「基準」ですから、決して「ゼロ」にはなりません。これが非常に怖いのです。どんなに「微量」でも、体の中に「蓄積」されていきますから。

 原発を見学した人ならわかると思いますが、「一般の人」が見学できる所はとてもキレイにしてあって、職員も「キレイでしょう?」と自慢そうに言っていますが、それは「当たり前」なのです。キレイにしておかないと「放射能のホコリ」が飛んで危険ですから。

 私はその「内部被曝」を 100回以上もして「癌」になってしまいました。「癌の宣告」を受けたとき、本当に「死ぬのが怖くて怖くて」どうしようかと考えました。でも、私の母がいつも言っていたのですが …


「死ぬより大きいことはないよ」


… と。「じゃあ、死ぬ前に何かやろう」と、原発のことで私が知っていることを「すべて明るみに出そう」と思ったのです。




 9. 普通の「職場環境」とは全く違う


 放射能というのは「蓄積」します。いくら「徴量」でも 10年なら 10年分が「蓄積」します。これが怖いのです。日本の「放射線管理」というのは、「年間 50ミリシーベルトを守ればイイ」「それを越えなければイイ」という姿勢です。

 たとえば「定検工事」ですと 三ヶ月くらいかかりますから、それで (日数で) 割ると「 一日分 (の許容量) 」が出ます。でも、「放射線量」が高い所ですと、一日に 5分から 7分間しか作業ができない所もあります。しかし、それでは全く仕事になりませんから、「 三日分」とか「 一週間分」をいっぺんに浴びせながら、作業をさせるのです。

 これは「絶対にやってはいけない方法」ですが、そうやって 10分間なり、20分間なりの作業ができるのです。そんなことをすると「白血病」とか「癌」になると知ってくれているとまだいいのですが、電力会社はこういうことを 一切教えません。

「稼動中」の原発で、機械に付いている大きなネジが 一本緩んだことがありました。動いている原発は放射能の量がものすごいですから、その「一本のネジ」を締めるのに働く人 30人を用意しました。

 一列に並んで「ヨーイ、ドン」で、7メートルくらい先にあるネジまで走って行きます。行って 1 … 2 … 3 … と数えるくらいで、もう「アラームメーター」が “ビーッ!” っと鳴る。なかには走って行って「ネジを締めるスパナはどこにあるんだ?」と言ったら、もう終わりの人もいる。ネジをたった 一山 … 二山 … 三山締めるだけで 160人分。金額で 400万円くらいかかりました。

「なぜ原発を止めて修理しないのか?」と、疑問に思われるかもしれませんが、原発を 一日止めると何億円もの「損」になりますから、電力会社はできるだけ止めないのです。放射能というのは非常に危険なものですが、企業というものは「人の命」よりも「お金 (利益) 」なのです。

 




10. 「絶対安全」だと 5時間の「洗脳教育」


 原発など「放射能のある職場」で働く人を、「放射線従事者」といいます。日本の「放射線従事者」は今までに約 27万人ですが、そのほとんどが「原発作業者」です。今も 9万人くらいの人が原発で働いています。その人たちが年 一回行われる原発の「定検工事」などを、日々「被曝」しながら支えているのです。

 原発で「初めて働く作業者」に対し、「放射線管理教育」を約 五時間かけて行います。この「教育」の最大の目的は「不安の解消」のためです。原発が「危険」だとは 一切教えません。

 

国 (政府) の被曝線量で管理しているので、「絶対大丈夫」なので安心して働きなさい。世間で「原発反対」の人たちが、「放射能で癌や白血病に冒される」と言っているが、あれは「まっかな大嘘」である。国 (政府) が決めたことを守っていれば、絶対に大丈夫だ。

… と、5時間かけて「洗脳」します。

 こういう「原発安全」の「洗脳」を、電力会社は「地域の人」にも行っています。有名人を呼んで「講演会」を開いたり …「文化サークル」で料理教室をしたり … カラー印刷の「立派なチラシ」を新聞に折り込みしたりして。だから事故があってちょっと「不安」に思ったとしても、そういう「安全宣伝」にすぐに「洗脳」されてしまって、原発が無くなったら電気が無くなって困ると思い込むようになるのです。

 私自身が 20年近く「現場責任者」として、働く人に「オウム」の 麻原以上のマインドコントロール …「洗脳教育」をやってきました。何人「殺した」か、わかりません。

 

 

 みなさんから「現場で働く人は不安に思っていないのか?」と、よく訊かれますが、放射能の「危険」や「被曝」のことは 一切知らされていませんから、「不安」だとは大半の人は思っていません。体の具合が悪くなっても、それが「原発のせい」だとは全然考えもしないのです。

 作業者全員が毎日「被曝」をする。それを、いかに「本人」や「外部」に知られないように「処理」するかが「責任者の仕事」です。「本人」や「外部」に「被曝」の問題が漏れるようでは「現場責任者」は失格なのです。これが原発の「現場」です。

 私はこのような仕事を長くやっていて、毎日が「いたたまれない」日も多く、夜は「酒の力」を借り酒量が日に日に増していきました。そうした自分自身に、問いかけることも多くなっていました。


「一体何のために … 誰のために、このような “嘘の毎日” を過ごさなければならないのか?」


… と。

 気がついたら「20年の原発労働」で、私の体も「被曝」でボロボロになっていました。




11. だれが助けるのか


 また、東京電力の「福島原発」で、現場作業員がグラインダーで額 (ひたい) を切って大怪我をしたことがありました。血が吹き出ていて「一刻を争う大怪我」でしたから、すぐに救急車を呼んで運び出しました。ところが、その怪我人は「放射能まみれ」だったのです。

 でも、電力会社も慌てていたので、「防護服」を脱がせたり体を洗ったりする「除洗」をしなかった。救急隊員にも「放射能汚染」の知識が全く無かったので、その怪我人は放射能の「除洗」をしないままに、病院に運ばれてしまったんです。

 だから、その怪我人を触った救急隊員が「汚染」される … 救急車も「汚染」される … 医者も看護婦さんも、その看護婦さんが触った他の患者さんも「汚染」される … その患者さんが外へ出てまた「汚染」が広がる … というふうに、町中が「パニック」になるほどの大変な事態になってしまいました。

 みんなが、大怪我をして出血の酷い人を「何とか助けたい」と思って必死だっただけで、放射能は全く目に見えませんから、その人が放射能で「汚染」されていることなんか、だれも気が付かなかったんですよ。

 一人でもこんなに大変なんです。それが仮に「大事故」が起きて、大勢の住民が放射能で「汚染」されたとき、 一体どうなるのでしょうか。想像できますか?他人事ではないのです。この国の人、「みんなの問題」です。

 




12. びっくりした!美浜原発「細管破断事故」


 皆さんが「知らない」のか「無関心」なのか、日本の原発は「びっくりするような大事故」をたびたび起こしています。「スリーマイル島」とか「チェルノブイリ」に匹敵する「大事故」です。1989年に東京電力の「福島第二原発」で「再循環ポンプ」がバラバラになった「大事故」も、「世界で初めての事故」でした。

 そして、1991年 2月に関西電力の「美浜原発」で「細管が破断」した事故は、放射能を直接に大気中や海へ「大量に放出」した「大事故」でした。「チェルノブイリ」の事故のときには、私はあまり驚かなかったんですよ。原発を造っていて、「そういう事故」が必ず起こるとわかっていましたから。だから、“ああ、たまたま「チェルノブイリ」で起きた” と、“たまたま日本ではなかった” と思ったんです。しかし「美浜原発」の事故の時はもうびっくりして、足がガクガク震えて椅子から立ち上がれないほどでした。

 この事故は「ECES (緊急炉心冷却装置) 」を「手動」で動かして「原発を止めた」という意味で、重大な事故だったんです。「ECCS」というのは原発の安全を守るための「最後の砦」に当たります。これが効かなかったら「お終い」です。だから「ECCS」を動かした美浜原発の事故というのは …


“ 一億数千万人の人を乗せたバスが高速道路を 100キロのスピードで走っているのに、「ブレーキ」も効かない …「サイドブレーキ」も効かない … 「崖」にぶつけてやっと止めた。”


… というような「大事故」だったんです。

 原子炉の中の「放射能を含んだ水」が海へ流れ出て、原子炉が「空焚き」になる寸前だったのです。日本が誇る「多重防護の安全弁」が次々と効かなくて、あと 0.7秒で「チェルノブイリ」になるところだった。

 それも、土曜日だったのですがたまたま「ベテランの職員」が来ていて、「自動停止」するはずが「停止」しなくて、その人がとっさの判断で「手動」で止めて、「世界を巻き込むような大事故」に至らなかったのです。日本中の人が … いや、世界中の人が、本当に「運がよかった」のですよ。

 この事故は、2ミリくらいの細い配管についている「触れ止め金具 (何千本もある細管が振動で触れ合わないようにしてある金具) 」が、「設計通り」に入っていなかったのが原因でした。「施工ミス」です。そのことが、20年近い何回もの「定検」でも見つからなかったんですから、「定検」の「イイ加減さ」がバレた事故でもあった。

「入らなければ切って捨てる」「合わなければ引っ張る」という、設計者が「まさか」と思うようなことが「現場」では当たり前に行われているということが、わかった事故でもあったんです。




13. 「もんじゅ」の大事故


 去年 1995年の 12月 8日に福井県の敦賀にある、「動燃 (動力炉/核燃料開発事業団) 」の「もんじゅ」で「ナトリウム漏れ」の「大事故」を起こしました。「もんじゅ」の事故はこれが初めてではなく、それまでにもたびたび事故を起こしていて、私は「建設中」に 六回も呼ばれて行きました。

 というのは、所長とか … 監督とか … 職人とか、元部下だった人たちが「もんじゅ」の担当もしているので、「何か困ったこと」があると私を呼ぶんですね。もう会社を辞めていましたが、原発だけは事故が起きたら「取り返し」がつきませんから、放ってはおけないので行くのです。

 あるとき電話がかかって、「配管がどうしても合わないから来てくれ」と言う。行ってみますと「特別に作った配管」も「既製品の配管」も、すべて「図面どおり」「寸法どおり」になっている。でも …「合わない」。

 どうして「合わない」のかいろいろ考えましたが、なかなかわからなかった。一晩考えてようやくわかりました。「もんじゅ」は日立・東芝・三菱・富士電機などの「寄せ集めのメーカー」で造ったもので、それぞれの会社の「設計基準」が違っていたのです。

「図面」を引くときに、私がいた日立は 0.5mm「切り捨て」… 東芝と三菱は 0.5mm「切上げ」… 日本原研は 0.5mm「切下げ」なんです。たった 0.5mmですが、100ヶ所も集まると「大変な違い」になるのです。だから「数字」も「線 (図面) 」も合っているのに「合わなかった」のですね。「これではダメだ」ということで、みんな「作り直し」させました。何しろ「国 (政府) の威信」がかかっていますから、「お金」はかけるんです。

 どうしてそういうことになるのかというと、それぞれの「ノウハウ」…「企業秘密」ということがあって、全体で話し合いをしてこの「0.5mm」について、「切り上げ」るか「切り下げ」るかどちらかに「統一」しようというような、「話し合い」をしていなかったのです。

 今回の「もんじゅ」の事故 (ナトリウム漏れ) の原因となった「温度センサー」にしても、「メーカー同士」での「話し合い」もされていなかったのではないでしょうか?どんなプラントの配管にも、あのような「温度計」がついていますが、私はあんなに長いのは見たことがありません。おそらく「施工」したときに、「危ない」とわかっていた人がいたはずなんですよ。でも、「よその会社のことだからほっとけばいい、自分の会社の責任ではない」と。

「動燃」自体が「電力会社」からの「出向」でできた「寄せ集め」ですが、「メーカー」も「寄せ集め」なんです。これでは「事故」は起こるべくして起こる。「事故」が起きないほうが不思議なんで、起こって当たり前なんです。

 

 しかしこんな「重大事故」でも、国 (政府) は「事故」とは言いません。「美浜原発の大事故」の時と同じように、「事象があった」と言っていました。私は事故の後、すぐに福井県の議会から呼ばれて行きました。あそこには 15基も原発がありますが、誘致したのは「自民党の議員」さんなんですね。だから私はそういう人にいつも …


「事故が起きたらあなた方のせいだよ。反対していた人には責任は無いよ」


… と言ってきました。今回、その議員さんたちに呼ばれたのです。


「今回は腹を据えて動燃とケンカする。どうしたらよいか教えて欲しい」


… と相談を受けたのです。それで私がまず最初に言ったことは …


「これは事故なんです“事故”。“事象” というような言葉に、誤魔化されちゃだめだよ」


… と言いました。県議会で「動燃」が「今回の事象は … 」と説明をはじめたら、「事故だろ!事故!」と議員が叫んでいたのがテレビで写っていましたが、あれも黙っていたら、軽い「事象」ということにされていたんです。

 地元の人たちだけではなく、私たちも向こう (原発村) の言う「事象」というような、「軽い言葉」に誤魔化されてはいけないんです。普通の人にとって「事故」と言うのと「事象」と言うのとでは、「受け取り方」がまったく違います。

 この国 (政府) が「事故」を「事象」などと言い換えるような「姑息」なことをしているので日本人には原発の「事故」の「危機感」が、ほとんど無いのです。




14. 「日本のプルトニウム」が「フランスの核兵器」に?


「もんじゅ」に使われているプルトニウムは、日本がフランスに「再処理」を依頼して「抽出」したものです。「再処理」というのは、原発で燃やしてしまったウラン燃料の中にできたプルトニウムを取り出すことですが、プルトニウムはそういうふうに「人工的」にしか作られないものです。

 そのプルトニウムが「もんじゅ」には、約 1.4トンも使われています。長崎の「原爆 (プルトニウム型) 」は約 8キロだったそうですが、一体「もんじゅ」のプルトニウムで、どのくらいの「原爆」ができますか?

 それに、どんなに「微量」でも「肺癌」を起こす猛毒物質です。「半減期」が 2万 4千年もあるので、ほぼ「永久的」に放射能を出し続けます。だからその名前が「プルートー」=「地獄の王」という名前からつけられたように、プルトニウムは「この世で 一番危険なもの」と言われるわけですよ。

 しかし、「日本のプルトニウム」が去年 (1995年) 南太平洋でフランスが行った「核実験」に使われた可能性が大きいことを、知っている人はあまりいません。フランスの「再処理工場」ではプルトニウムを作るのに、「核兵器用」も「原発用」も区別は無いのです。だから「日本のプルトニウム」がこの時の「核実験」に使われてしまったことは、ほぼ間違いありません。

 日本がこの「核実験」に「反対」をキッチリ言えなかったのには、そういう理由があるからです。もし「日本政府」が本気で「フランスの核実験」を止めさせたかったなら、簡単だったのです。つまり、「再処理の契約」を止めればよかったんです。でも、それをしなかった。

 日本とフランスの「貿易額」で 二番目に多いのは、この「再処理」の「お金」なんですよ。国民はそんなことも知らないで、いくら「核実験に反対、反対!」と言っても「仕方が無い」んじゃないでしょうか?それに「唯一の被爆国」と言いながら、「日本のプルトニウム」がタヒチの人々を「被爆」させ、きれいな海を放射能で汚してしまったに違いありません。

 世界中があきらめたのに、日本だけはまだ「こんなもの」で電気を作ろうとしているんです。普通の原発でウランとプルトニウムを混ぜた燃料 (MOX燃料) を燃やす … いわゆる「プルサーマル」をやろうとしています。しかし、これは非常に「危険」です。わかりやすく言うと、「石油ストーブ」で「ガソリン」を燃やすようなものなんです。原発の「元々の設計」が「プルトニウムを燃やす」ようになっていません。プルトニウムは「核分裂」の力 (エネルギー) が、ウランとは「ケタ違い」に大きいんです。だから「原爆の材料」にしているわけですから。

 いくら「資源が無い国」だからといっても、あまりに酷すぎるんじゃないでしょうか?早く原発を止めて、プルトニウムを使うなんてことも止めなければ、あちこちで「被曝者」が増えていくばかりです。




15. 日本には「途中で止める勇気」が無い


 世界では「原発の時代」は終わりです。原発の先進国のアメリカでは 二月 (1996年) に、2015年までに原発を半分にすると発表しました。それにプルトニウムの研究も、「大統領命令」で止めています。あんなに怖い物、研究さえ止めました。

「もんじゅ」のようにプルトニウムを使う原発 …「高速増殖炉」も、アメリカはもちろん、イギリスもドイツも止めました。ドイツはでき上がったのを止めて「リゾートパーク」にしてしまいました。世界の国がプルトニウムで発電するのは「不可能」だとわかって止めたんです。「日本政府」も今度の「もんじゅ」の事故で “失敗した” と思っているでしょう。でも、まだ止めない。


これからもやる!


… と言っています。

 

 

 どうして日本が「止めない」かというと、日本 (日本人) には、いったん決めたことを「途中で止める勇気 (過ちを認める勇気) 」が無いからで、この国が「途中で止める勇気」が無いというのは、非常に怖いです。みなさんもそんな例は「山ほど」ご存じでしょう。

 とにかく日本の「原子力政策」はイイ加減なのです。日本は原発をはじめるときから、後のことは何にも考えていなかった。「そのうちに何とかなるだろう」「後の者が何とかしてくれるだろう」と、そんなイイ加減なことでやってきたんです。そうやって何十年も経った。でも「廃棄物」一つのことさえ、どうにもできないんです。

 もう 一つ大変なことは、今までは大学に「原子力工学科」があってそれなりに学生がいましたが、今は若い人たちが原子力から離れてしまい、東大をはじめ、ほとんどの大学から無くなってしまいました。「机の上」で研究する大学生さえいなくなったのです。

 また、日立と東芝にある「原子力部門」の人も 3分の 1に減って、コ・ジェネレーション (電気とお湯を同時に作る効率のよい発電設備) の「ガス・タービン」の方へ向いました。「メーカー」でさえ、原子力は「もう終わり」だと思っているのです。

 

 

 原子力局長をやっていた 島村武久さんという人が「退官」して、『原子力談義』という本で …

 

日本政府がやっているのは、ただの「辻褄合わせ」に過ぎない。電気が足りないのでも何でもない。あまりに「無計画」にウランとかプルトニウムを持ち過ぎてしまったことが原因です。

はっきり「ノー」と言わないから、「持たされてしまった」のです。そして、日本はそれらで「核兵器」を作るんじゃないかと、世界の国々から見られる。

その「疑惑」を否定するために「核の平和利用」… つまり、「原発をもっともっと造ろう」ということになるのです。

… と書いてますが、これも「この国の姿」なんです。




16. 「廃炉」も「解体」もできない原発


 1966年に日本で初めて、イギリスから輸入した 16万キロワットの営業用原子炉が、茨城県の東海村で稼動しました。その後はアメリカから輸入した原発で、途中で「自前」で造るようになりましたが、今ではこの「狭い日本」に 135万キロワットというような巨大な原発を含めて、51基の原発が運転されています。

 具体的な「廃炉」「解体」や「廃棄物」のことなど、考えないままに動かしはじめた原発ですが、分厚い鉄でできた原子炉も、大量の放射能を浴びるとボロボロになるんです。だから最初「耐用年数は 10年」だと言っていて、10年で「廃炉」「解体」する予定でいました。しかし、1981年に 10年経った東京電力の「福島原発 一号基」で、当初考えていたような「廃炉」「解体」が全然できないことがわかりました。このことは、国会でも「原子炉は核反応に耐えられない」と、問題になりました。

 この時私も加わって、この原子炉の「廃炉」「解体」についてどうするか、毎日のように「ああでもない」「こうでもない」と検討をしたのですが、放射能だらけの原発を無理やりに「廃炉」「解体」しようとしても、造る時の何倍もの費用がかかることや、どうしても「大量の被曝」は避けられないことなど、どうしようも無いことがわかったのです。原子炉の直ぐ下の方では、「決められた線量」を守ろうとするとたった 10数秒くらいしかいられないんですから。

「机の上」では何でもできますが、実際には「人の手」でやらなければならないのですから、とんでもない「被曝」をともなうわけです。ですから放射能が「ゼロ」にならないと何にもできないのです。放射能がある限り「廃炉」「解体」は不可能なのです。


「人間にできなければロボットで」


… と言う人もいます。でも研究はしていますが、「ロボット」が放射能で狂ってしまって使えないのです。

 結局、福島原発では「廃炉」にすることができないというので、原発を売り込んだアメリカの「メーカー」が、自分の国から作業者を送り込み、日本では到底考えられない程の「大量の被曝」をさせて、原子炉の「修理」をしたのです。

 今でもその原発は動いています。最初に「耐用年数は 10年」と言われていた原発が、もう 30年近く動いています。そんな原発が 11基もある。くたびれてヨタヨタになっても動かし続けていて、私は心配でたまりません。

 また、神奈川県の川崎にある「武蔵工大」の原子炉はたった 100キロワットの「研究炉」ですが、これも「放射能漏れ」を起こして止まっています。「机の上」の計算では、「修理」に 20億円、「廃炉」にするには 60億円もかかるそうですが、「大学の年間予算」に相当するお金をかけても「廃炉」にはできないのです。先ず「停止」して、放射能が無くなるまで「管理」するしかないのです。それが 100万キロワットというような大きな原発ですと、本当にどうしようもありません。




17. 「閉鎖」して監視/管理


 なぜ原発は「廃炉」や「解体」ができないのでしょうか?それは、原発は 「水」と「蒸気」で運転されているものなので、運転を止めてそのままに放置しておくと、すぐに「錆」が出てボロボロになって、配管に孔が開いて放射能が漏れ出てくるからです。

 原発は「核燃料」を入れて 一回でも運転すると放射能だらけになって、「止めたまま」にしておくことも、「廃炉」「解体」することもできないものになってしまうのです。先進各国で「閉鎖」した原発は数多くあります。「廃炉」「解体」ができないのでみんな「閉鎖」なんです。

「閉鎖」とは、発電を止めて「核燃料」を取り出しておくことですが、ここからが大変です。放射能まみれになってしまった原発は、発電しているときと同じように水を入れて動かし続けなければなりません。水の圧力で配管が薄くなったり、部品の具合が悪くなったりしますから「定検」もして、そういう所の「補修」をして放射能が外に漏れ出さないようにしなければなりません。放射能が無くなるまで発電しているときと同じように監視し、管理をし続けなければならないのです。

 いま現在「運転中」が 51、「建設中」が 3、全部で 54基の原発が日本列島を取り巻いています。これ以上運転を続けるとあまりにも危険な原発も、いくつかあります。この他に大学や会社の研究用の原子炉もありますから、日本にはいま、小さいのは 100キロワットから大きいのは 135万キロワット、大小併せて 76基もの原子炉があることになります。

 しかし、日本の電力会社が電気を作らない …「金儲け」にならない「閉鎖」した原発を本気で監視し続けるか、大変疑問です。それなのにさらに「新規立地」や、「増設」を行おうとしています。その中には、「東海地震」のことで心配な浜岡に 五基目の「増設」をしようとしていたり、福島では「サッカー場」と引換えにした「増設」もあります。

「新設」では、新潟の巻町や三重の芦浜、山口の上関、石川の珠洲、青森の大間や東通などいくつもあります。それで 2010年には 70 ~ 80基にしようと。実際、言葉は悪いですが …


この国 (の政府) は狂っている


… としか思えません。これから先、必ずやってくる原発の「閉鎖」。これは本当に大変「深刻な問題」です。近い将来「閉鎖」された原発が、日本国中いたるところに出現する。これは「不安」というより「不気味」です。ゾっとするのは私だけでしょうか。

 




18. どうしようもない「放射性廃棄物」


 それから、原発を運転すると必ず出る「核のゴミ」… 毎日出ています。「低レベル放射性廃棄物」… 名前は「低レベル」ですが、中にはこのドラム缶の傍に 5時間もいたら、致死量の「被曝」をするようなものもあります。そんなものが全国の原発で、約 80万本以上溜まっています。

 日本が原発をはじめてから 1969年までは、どこの原発でも「核のゴミ」は「ドラム缶」に詰めて近くの海に捨てていました。その頃はそれが「当たり前」だったのです。私が茨城県の「東海原発」にいたとき、業者は「ドラム缶」をトラックで運んでから船に載せて、千葉の沖に捨てに行っていました。しかし、私が …


原発はちょっとおかしいぞ?


… と思ったのは、このことからでした。

 海に捨てた「ドラム缶」は 一年も経てば腐ってしまうのに、中の「核のゴミ」はどうなるのだろうか?魚はどうなるのだろうか?と思ったのがはじまりでした。

 現在は原発の「ゴミ」は、青森の六ヶ所村へ持って行っています。全部で 300万本の「ドラム缶」を、これから 300年間「管理」すると言っていますが、一体、300年間もつ「ドラム缶」があるのか?「廃棄物業者」が 300年間も続くのかどうか?どうなりますか?

 もう 一つの「高レベル廃棄物」… これは「使用済み核燃料」を「再処理し」て、プルトニウムを取り出した後に残った「放射性廃棄物」です。日本はイギリスとフランスの会社に「再処理」を頼んでいます。去年 (1995年) フランスから、28本の「高レベル廃棄物」として送り還されて来ました。

 これは、ドロドロの「高レベル廃棄物」をガラスと 一緒に固めて「金属容器」に入れたものです。この「容器」の側に 2分間いると死んでしまうほどの放射線を出すそうですが、これを 一時的に青森県の六ヶ所村に置いて、30年から 50年間くらい冷やし続け、その後、どこか他の場所に持って行って「地中深く埋める予定」だと言っていますが、「予定地」は全く決まっていません。よその国でも「計画」だけはあっても、実際にこの「高レベル廃棄物」を処分した国はありません。みんな困っています。

 原発自体についても、国 (政府) は止めてから 5年か 10年間「密閉管理」してから粉々に砕いて、「ドラム缶」に入れて「原発の敷地内に埋める」などと「悠長」なことを言っていますが、それでも、一基で数万トンくらいの「放射能まみれの廃材」が出るんですよ。「生活のゴミ」でさえ捨てる所が無いのに、一体どうしようというんでしょうか?

 

 

 とにかく、日本中が「核のゴミだらけ」になることは目に見えています。早く何とかしないといけないんじゃないでしょうか?それには …


一日も早く原発を止めるしかないんですよ。


 私が 五年ほど前に北海道で話をしていたとき、「放射能のゴミを 50年、300年、監視し続ける」と言ったら、中学生の女の子が手を挙げて …


「お聞きしていいですか?今、廃棄物を 50年 … 300年 … 監視すると言いましたが、今の大人がするんですか?そうじゃないでしょう。次の私たちの世代 … またその次の世代がするんじゃないんですか?だけど、私たちは嫌だ


… と叫ぶように言いました。この子に答えられる大人はいますか?

 それに 50年とか 300年とかいうと、“それだけ経てばいいんだ” というように聞こえますが、そうじゃありません。原発が動いている限り「終わり」の無い、「永遠の 50年であり、300年だ」ということです。




19. 住民の「被曝」と恐ろしい「差別」


 日本の原発は今までは、「放射能を 一切出していません」と、何十年も「嘘」をついてきた。でも、そういう「嘘」がつけなくなったのです。

 原発にある高い「排気塔」からは放射能が出ています。「出ている」んではなくて「出している」んですが、24時間、放射能を「出しています」からその周辺に住んでいる人たちは、一日中放射能を浴びて「被曝」しているのです。

 ある女性から手紙が来ました … 23歳です。「便箋」に涙の跡が滲んでいました。

 

東京で就職して恋愛し、結婚が決まって「結納」も交わしました。ところが突然、相手から婚約を解消されてしまったのです。

相手の人は、「君には何にも悪い所は無い、自分も 一緒になりたいと思っている。でも親たちから、君が福井県の敦賀で 十数年間育っている。原発の周辺では白血病の子どもが生まれる確率が高いという。白血病の孫の顔はふびんで見たくない。だから結婚するのはやめてくれ、と言われたから」と。

 私が何か、悪いことしましたか。

 

… と書いてありました。この娘さんに「何の罪」がありますか?こういう話は方々で起きています。

 この話は原発の「現地」の話ではなく、「東京」で起きた話なんですよ。東京で。みなさんは「原発で働いていた男性」と自分の娘とか、この女性のように「原発の近くで育った娘さん」と自分の息子とかの結婚を、心から喜べますか?若い人もそういう人と恋愛するかも知れないですから、全くの「他人事」ではないんです。

 こういう「差別」の話は口に出せば「差別」になる。でも、言わなければわからないことなんです。原発に反対している人も、原発は「事故」や「故障」が怖いだけではなく、こういうことが起きるから「原発は嫌なんだ」と言って欲しいと思います。原発の問題は「事故」だけではない。人の「心」までも「壊している」のですから。




20. 私 … 子ども産んでも大丈夫ですか?たとえ電気が無くなってもいいから、私は原発は嫌だ


 最後に、私自身が大変ショックを受けた話ですが、北海道の「泊原発」の隣の共和町で「教職員組合」主催の講演を、していた時のお話をします。どこへ行っても必ずこのお話はしています。あとの話は全部忘れてくださっても結構ですが、この話だけはぜひ覚えておいてください。

 その「講演会」は夜の集まりでしたが、父母と教職員が半々くらいで、およそ 300人くらいの人が来ていました。その中には中学生や高校生もいました。原発は「今の大人の問題」ではない、「私たち子供の問題」だからと、聴きに来ていたのです。

 話がひと通り終わったので私が「質問はありませんか」と訊くと、中学二年の女の子が泣きながら手を挙げて、こういうことを言いました。

「今夜この会場に集まっている大人たちは、大嘘つきの “エエかっこし” ばっかりだ。私はその顔を見に来たんだ。どんな顔をして来ているのかと。

今の大人たち … 特に、ここにいる大人たちは農薬問題 … ゴルフ場問題 … 原発問題、何かといえば “子供たちのために” と言って “運動するフリ” ばかりしている。私は泊原発のすぐ近くの共和町に住んで、24時間被曝している。

原子力発電所の周辺 … イギリスのセラフィールドで、白血病の子どもが産まれる確率が高いというのは本を読んで知っている。私も女の子です、年頃になったら結婚もするでしょう。私 … 子ども産んでも大丈夫なんですか?


… と泣きながら、300人の大人たちに訊いているのです。でも、誰も答えてあげられない。


「原発がそんなに大変なものなら、今頃じゃなくて、なぜ最初に造るときに 一生懸命反対してくれなかったのか?ましてやここに来ている大人たちは、二号基も造らせたじゃないか。たとえ電気が無くなってもいいから、私は原発は嫌だ」


… と、ちょうど「泊原発」の 二号基が「試運転」に入った時だったんです。


「何で今になって、こういう集会しているのかわからない。私が大人で子どもがいたら、命懸けで体を張ってでも、原発を止めている」


… と言う。

 

 

「二基目ができて、今までの “倍” 私は放射能を浴びている。でも私は、北海道から逃げない!


… って、泣きながら訴えました。

 私が「そういう悩みをお母さんや先生に話したことがあるの?」と聞きましたら、「この会場には先生やお母さんも来ている。でも話したことはない」と言います。


「女の子同士ではいつもその話をしている。結婚もできない。子どもも産めないって」


「担任の先生」たちも、今の生徒たちがそういう「悩み」を抱えていることを「少しも知らなかった」そうです。

 これは決して「原子力防災」の 8キロとか、10キロの問題ではない。50キロ … 100キロ圏でそういうことがいっぱい起きているのです。そういう「悩み」を今の中学生/高校生が持っていることを、絶えず知っていて欲しいのです。




21. 原発がある限り「安心」できない


 みなさんには、ここまでのことから原発がどんなものか、わかってもらえたと思います。「チェルノブイリ」で原発の「大事故」が起きて、“原発は怖いなあ” と思った人も多かったと思います。でも、「原発が止まったら電気が無くなって困る」と、とくに都会の人は原発から遠いですから “少し怖くても仕方がない” と、そう考えている人は多いんじゃないでしょうか。でも、それは国や「電力会社」が …


原発は「核の平和利用」です

日本の原発は絶対に事故を起こしません

「安全」だから「安心」しなさい

日本には「資源」がないから、原発は絶対に必要なんです


… と、大金 (税金) をかけて宣伝をしている結果なんです。「もんじゅ」の事故のように、本当のことはズっと隠しています。

 原発は確かに電気を作っています。しかし、私が 20年間働いてこの目で見たり、この体で経験したことは、原発は (現場で) 働く人を必ず「被曝」させなければ動かないものだということです。それに原発を造る時から地域の人たちは、「賛成だ」「反対だ」と割れて (対立して) 心をズタズタにされる。できたらできたで「被曝」させられ、何の罪も無いのに「差別」されて苦しんでいるんです。

 みなさんは原発が「事故」を起こしたら怖い のは知っている。だったら「事故」さえ起こさなければイイのか?「平和利用」ならイイのか?と。そうじゃないでしょう?私のような話 … 働く人が「被曝」して死んでいったり、地域の人たちが苦しんでいる限り、原発は「平和利用」なんかではないんです。

 それに、「安全」なことと「安心」だということは、違うんです。原発がある限り「安心」できないのですから。

 それから、今は電気を作っているように見えても、何万年も管理しなければならない「核のゴミ」に膨大な電気や石油が要るのです。それは「今作っている以上のエネルギー」になることは、間違い無いんですよ。それに、その「核のゴミ」や「閉鎖した原発」を管理するのは私たちの子孫なのです。そんな原発が、どうして「平和利用」だなんて言えますか?だから私は何度も言いますが …


原発は絶対に「核の平和利用」ではありません!


 だから私は「お願い」したい。朝、必ず自分のお子さんの顔やお孫さんの顔を、シッカリと見て欲しいと。

 

 

 果たして、このまま日本だけが原子力発電所をドンドン造って、大丈夫なのかどうか?「事故」だけでなく「地震」で壊れる心配もあって、このままでは本当に取り返しのつかないことが起きてしまうとこれをどうしても知って欲しいのです。

 ですから私は、「これ以上原発を増やしてはいけない」「原発の増設には絶対に反対だ」という信念でやっています。そして「稼働」している原発も、着実に「止めなければならない」と思っています。原発がある限り世界に「本当の平和」は来ないのですから。


優しい地球

手渡そう子どもたちに




 

筆者「平井 憲夫さん」について:


1997年 1月 逝去。
1級プラント配管技能士、原発事故調査国民会議顧問、原発被曝労働者救済センター代表※、北陸電力能登(現・志賀)原発差し止め裁判原告特別補佐人、東北電力女川原発差し止め裁判原告特別補佐人、福島第 2原発 3号機運転差し止め訴訟原告証人。

※「原発被曝労働者救済センター」は後継者がなく、閉鎖されました。
e-kochi

原子力発電がなくても暮らせる社会をつくる国民会議
http://genpatsu_shinsai.tripod.co.jp/

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